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『妻よ、君がその手を離すまで』籐子

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 翌日、私は仕事を休んで妻と病院に行った。妻は、どうして精神科に連れて来られたのか、薄々理解しているようで、「足以外悪いところはない」とぶつぶつ文句を言いながらも、嫌がることなく診察室まで私と手を繋いで向かった。

 予想通りだった。診断結果は、アルツハイマー型認知症。
 今は初期の段階だが、進行が進むと更に記憶障害や感情のコントロールがきかなくなるので、専門の介護が必要になるとのことだった。
 診断結果を妻に伝えるべきか悩んだ。しかし、妻は私の目をまっすぐに見て言った。
「あなたが秘密なんてできるはずないでしょ。ましてや、この歳になって秘密だなんて、そんなナンセンスな事、しないでくれる?」
 妻は笑った。
 どうしてこんな時まで笑顔でいれるんだ。今の君は、いなくなるかもしれないのに。
「なんて顔してるのよ、あなた」
 妻は私の正面に立ち、私の頬を両手で包み込んだ。

 観覧車で握ったこの手は、今ではしわしわで、もっと華奢になっていたが、あの時と同じように、温かかった。

 そうだ、いつもそうだった。
 私はこの手に支えられて人生を歩んできた。
 平凡だった私の人生を変えてくれたのは、わがままで、プライドが高くて、負けん気が強くて、見栄っ張りで、そして、誰よりも愛情深い、この妻だ。
 涙で歪んだ視界の中で、私は妻の左右の手の上に自分の手を重ね、ぎゅっと握りしめた。
 この手を絶対に離さない。離すものか。

 妻がバスに乗りたいというので、少し遠回りになるが、バスに乗って帰ることにした。近くの河川敷はちょうど満開の桜が散った後で、きれいなピンク色の絨毯になっていた。
「懐かしいわね、ここ。美鈴を連れてよくお花見に来たでしょ」
 妻は河川敷を眺めながら、穏やかな笑顔で呟いた。
 またしばらくして、デパートが近づいてくると、遠くに屋上観覧車が見えた。
「あなたと並んだあの日の事は、絶対に忘れない気がする。だって、死ぬほど恥ずかしかったんだから」
 妻の楽しそうな様子を見て、私はふと思った。妻との思い出がつまったこの町を、二人で巡りたいと。

 翌日、私は会社に着くなり宮本に言った。

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