しおりぃ。七生はいつもしおりぃと語尾を下げるように呼び捨てにしていた。
百合子さんもそれを正そうとはしなかったし、わたしも小さい頃からそうだったので、急にお姉ちゃんとかって呼ばれることのほうに抵抗があった。
ふいに手袋を脱いだ七生の人差し指と親指が互い違いに触れ合って、四角いフレームを作っていた。
「なにやってんの?」
「ほら、しおりぃもやってみぃ」
こうやんのって七生はわたしの手袋のゆびを四角く形作らせようとする。
仕方なくわたしは七生の真似をする。なんでやらされてるのかわからないまま、やってみる。手袋を脱ぐと、指先が急に風に触れた。
「へったくそだね。ばっか、こうなんだってば」
七生がわたしの指をもって訂正をする。もといをするのだ。
「そうそうそう。その形!」
小さい頃から少しえらそう。同い年の双子のくせに姉のわたしを仕切るのは俺。それが七生のキャラだ。こういう双子姉弟の関係がとくにおとなの人たち、先生などには誤解を招いてきたのかもしれないと思うけど、わたしには意外と心地よくて気に入っていた。
「こうやってさ、景色をねらってさ、ぱちって目をつむったら、どこからか、落ち葉みたいにするるって一枚の写真が落ちてくるとおもしろいのにぃ」
ひとりごとみたいに七生がそういった。七生はひとりで遊ぶのも上手らしく、ちょっとした空想キッズだった。
「しおりぃ、ほらあのけしきをいれて!」
いきなり、七生の世界にひきずりこまれた。七生の指さす風景、それは駅のロータリーをぐるりと囲むように立っている1本のクリスマスツリーだった。
たぶん11月頃。ツリーに電飾がかざられて何秒か置きにちかちかと光が点滅する。その光の球はときおりトナカイが橇を引いている輪郭を映したり、シルエットになったりしている。七生をみると四角い指のフレームのまま目を本気でつむってた。写りりますようにって祈ってるのか唇がもごもごしている。そしてゆっくりと目を開けた。
「なぁんてね」
鼻に小じわをよせてふふふって笑う。念力少年だったらどうする?
「きっといじめられるよ」
「だよね、ふつうの少年でいいや俺。でも時々このエアカメラごっこしたいな」
エアカメラ。七生がさっき思いついたごっこの名前。
タクシーのテールランプが、オレンジ色に光りながらつながっては、離れてはまたつながってどこかへと消えてゆくのが見えていた。