どってんするようなメールが入ったのは青森の熱狂的な夏のイベント、ねぶた祭りはとうに終わって、秋の風が吹き始めた頃だった。
送り主は当麻。異動からは既に1年と半年が経過している。自分の事なんてもう既に忘れ去られていたのかと思っていたのに。
寝耳に水、二の句が継げない、色々な表現があるけれど、俺の中では今一番、『どってん』が心地よくハマった。
内容もどってんするものだった。
『今週末か来週末、青森に遊びに行こうと思ってるんだけど、どっちなら会える?』
俺に会いに青森に来る。同期でも目立つ方だった当麻が、同期でも特別にパッとしている方でもなかった俺の所にやってくる。
テレビで週末は台風の予報が出ていたのがちょうど耳に入ってきて、俺は当麻に来週末を提案した。
「うおー!青森に来たぞー!」
人気のない駅改札口で当麻は目立っていた。そもそも長身でそこそこ見てくれのいい当麻が、都会的で洗練された私服を来てやってきたのだ。道行く女性が当麻をチラチラと見ている視線を感じる。
「新幹線、本州端の駅!いやー遠くまで来た感あるわー」
「久しぶり。どうしたの?」
「いや、俺遊びに行くって言ったじゃん!落ち着いたらお前から連絡あるかなーって思ってたけど、全然連絡ないし。だから押し掛けちゃったじゃんかよ」
あ、あれは俺から誘うべき案件だったのか。
「ちなみに東北美人は?」
「1年と半年だけで彼女ができてたら、多分俺、もっと東京でも友達いたと思う」
「そんな悲しい事言うなって。結構遊びに行きたいやつ多かったんだぜ」
「いやでも連絡くれて、こうして実際に遊びにきたの、当麻くらいだぜ」
「いやーみんなでさ、いつ行く?って日程調整しているうちに1年経っちゃったんだよね。安田とか佐藤とかも誘ってたんだけど、全然みんなの予定が合わないから、それなら俺一人で行ってやろーって思っての今日です」
そういって当麻はてへっと笑った。愛されキャラな笑顔がさすが営業同期ナンバーワン。
東北美人は紹介できなかったけれど、青森の見所は思っていた以上に自分の頭の中に入っていた。青森にはねぶた以外のイメージがなかなかないけれど、秋のこの季節はちょうど田んぼアートが見頃だし、そのまま弘前城を見に行くのも良い。