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『この街に在るもの』公乃まつり

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「あ、いえ、大丈夫です。すみません、どんなケンカしたんですか?」
「あれは確か、友人の情事……今風に言うなら、恋バナってやつをしている時だった。友人の思い人が、当時私が付き合っていた人だったんだ。お互いの恋愛事情なんて話した事がなかったから、全然知らなかったんだよな」
金橋部長は空になったお茶碗を置いて、水を一口飲んでから、再び話し始めた。
「友人がいかに相手を思っているのか、最初は話をうんうんと聞いていたのだけれど、相手があまりにも熱心でね。おまけに酒もどんどん入るし、ついに私は友人に打ち明けた。そしたら、友人はどうしたと思う?」
「……怒ったんですか?なんでだまってたんだ、といったところでしょうか」
金橋部長はゆっくり首を横に振った。
「ぽかん、とした顔で私の顔をじっと見ていた。何が起きているのか、さっぱり分からない、といった表情だったな。そりゃ、どってんしの……」
どってん、驚く、みたいな意味だったかな。
「友人は何も言わなかった。ショックだったのかもしれない。けれども私も本気だったし、彼女も青森に来てくれる約束に既になっていた。私は彼に彼女を絶対に幸せにする約束と、彼女と東京を立つ夜行バスの日程と時間を彼に伝えてその場を去った」
「ご友人は、見送りに来てくれたんですか?」
「いや。出発時間ギリギリまでバスの外で待ったが、彼は来なかった。それもそうかもしれない。自分が好いていた人が、自分が……仲が良いと思っていた友人と遠い地に行ってしまうのだから……」
俺はあの最後に飲んだ夜のことを思い出していた。カウンター席で、親父がケンカ分かれしたという友人の話がグルグルと頭の中を回っていた。
「つまらない親父の昔話だったね。さて、お会計は私が持つよ。昔話に付き合ってくれたお礼だ」
「あっ!ありがとうございます。ごちそうさまです」
金橋部長はそう言ってお会計に向かった。自分も慌てて席に忘れ物がないかチェックをし、部長につづいた。


外に出ると、ひんやりとした風が首筋から体に入り込んできた。暦の上ではもう春なのだけど、青森の夜はまだまだ寒い。うっかりマフラーを置いてきてしまったが、まだ必要だったかもしれない。俺は薄手のコートのボタンをしっかり閉めた。
「ここのほたては本当に美味しいんだ。個人的には市内で一番だと思っている」
「本当に美味しかったです。それにサイズもすごく大きくて……どってんしました」
俺が少し残った酔いの勢いにのって津軽弁を交えてみると、金橋部長は穏やかに笑って言った。
「そうそう、東京育ちの妻も、最初に覚えた津軽弁はどってん、だったなあ。私がよく使っているせいかな」

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