「おやじさん、青森詳しいんですか?藤島、これは聞いておいた方が良いぞ!」
おやじさんはビールをグビっと飲んで、話を続けた。
「いやなに、昔大げんかして以来会っていない友人が青森のやつだったんだ」
「今でも覚えているくらいの大げんかなんですか?」
「うーんなんというか、会話が成り立たないままさよならしちまったから、未だに心に引っかかってる。今みたいにすぐに連絡を取り合えるような時代でもなかったし、言い合ったまま分かれちまってそれっきり……だから印象に残ってるのかな。一つ言えるのが、もっときちんと話を聞いてやれば良かった、ということだな」
「それはやっぱり……訛り、ですか?」
おやじは割り箸を割りながら首を横に振った。
「いや、そうじゃなかった。もちろんあいつの言ってる事は分かりにくかった。でも、それ以上に俺はあいつの話をちゃんと聞いてやろうってことができていなかった。あいつとのことを思い出そうとすると大抵俺の方がしゃべってる。大ケンカになった時も、最初は俺ががーっと言ってばっかりで」
「それっきり、ですか?」
当麻が神妙な面持ちで相槌を打つ。笑って聞く場面と真剣に聞く場面の空気も読める男だ。
「ああ。まあ、最後にお返しのように弾丸トークで攻めてきたのは向こうだったけどな。正直なんて言ってたのか分からなかったし。おまけにお互い酒も入ってたし。で、それっきりだな。ま、何が言いたいのかって、青森含む東北の子って静かなんだけど、ちゃんと意見は持っていて、ちょっと待ってやんなきゃいけないってことだ。それが東北で上手く生き抜く知恵よ」
「なるほど〜!参考になります!藤島!ちゃんと周りの話を聞いてやれよ〜!」
「にいちゃんの門出を祝って!よし、この焼き鳥は俺からのお祝いだ!おやじ〜俺につけといて!」
ちょうど良く店の主人がカウンター越しににやりと笑った。当麻と俺は、お礼を言って焼き鳥を頬張った。
青森に来て1年が経過した。にぎやかだった毎日は夢だったと思うくらい、静かな毎日になった。夜はきちんと暗いし、静かだ。空気も美味しいし、ついでに東京勤務だった時よりも帰宅時間は早くなった。
東京勤務最終日。同期二人で過ごした時間から、当麻との距離は縮まったと思っていたけれど、当麻はまだ一度も遊びにきていない。良くも悪くも人たらしのあいつだ。それにそもそも、転勤する同期に対しての、遊びに行くよ、は送り出しの常套句の一つだ。