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『お弁当の隙間』黒藪千代

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(お弁当の隙間惣菜)が今でも売っているのか、それよりも米屋がまだお惣菜を売っているのかさえ確信はない。
 職場は駅とは反対の郊外にある薬品工場まで車で通っている。夕飯の買い物だけをするために混雑する駅前の商店街にはこのところめっきり足を向けなくなっていた。
 自転車のペダルを忙しく漕ぎながら、米屋がお惣菜をやめていませんように、どうかお惣菜が残っていますようにと祈った。ここ数年で一番頑張ったと自分を褒めたくなるほど一生懸命ペダルを漕いでやっと商店街の入口が見えて来た。
 遠くから小さく丸みを帯びた身体のおばさんがこちらに大きく手を振っている姿が見えて、目をこらすとそれは母だった。
「理沙から電話があったよ!あんたが慌てて自転車で出て行ったって、おばあちゃん具合悪いの?大丈夫?って言われたわよ!一体どうしたの?」
 いつの間にか私より目線が低くなっている母の姿に、自分でも訳が分からず涙が溢れた。(とにかく落ち着きなさい)と背中を摩ってくれる母に、私は子供のように泣きじゃくりながら話した。
 理沙の毎日のお弁当で悩んでいた事、年頃になった理沙にどう接したらいいのかわからなくなっていた事、そして祖母のお弁当を思い出した事。
 次々と口に出して話していくうちに、しゃくり上げていた呼吸が落ち着き、やっと涙が止まった。
「はっはっはっ、なんだぁ~そんな事」
 心配そうに背中をさすってくれていた母が、止めていた呼吸を吐き出すように大声で笑った。行き交う人がチラチラと私たち親子を見る。
「ちょっと、そんなに大声で笑ったら恥ずかしい!やめてよ」
(そうねぇ~)と言って周りを見回してからまた小さく笑った母は、店を継いだ私の弟の息子に毎日お弁当を作っている事を話してくれた。
 そして、祖母に習って米屋のお惣菜を使っているという。
(まだ、残ってるかな?)と慌てて聞く私に(とにかく家に来なさい)と母に促され、自転車を押して商店街の中へ入った。
 あの頃と変わらず夕方の商店街は多くの人で賑わっていた。
 母が八百屋のおばさんに向かって手を上げると(あら~美和ちゃん!久しぶりね~)と大声で言いながら手を振ってくれた。ちょっと恥ずかしいなと思ったけれど、片手を小さく上げて頭を下げた。
 そしてまた少し進むと、肉屋の店先で黙々と焼き鳥を焼いていたおじさんが(おっ)という顔で焼き鳥の串を持ったまま小さく手を上げる。母はすかさずぺこりと頭を下げた。
 しばらく進むと米屋が見えてきた。まだ距離はあるのにおじさんの懐かしいダミ声が聞こえてくる。店先には思っていたよりも混雑はなく、数人のお客さんが立ち止まっているだけだった。やっぱりもう売れちゃったかな。そう思いながら近づいて、店先にある惣菜に目を凝らした。

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