改めて目の前にズラリと並んだお惣菜を見ると食欲をそそるポップがそれぞれのお惣菜に添えられていた。
(あっ)今度は口元を押さえる前に声が出た。
かぼちゃの巾着。そのとなりには小さなカップに二種類と、中くらいのカップに三種類のあのプチトマトが!コーンに、ゆで卵に、かぼちゃと松の実のプチトマトが(お弁当の隙間惣菜)と書かれたポップの下で一際目立っていた。見ている間にも次々と手に取られて数が減っていく。
祖母のお弁当のアイデアは、商店街のみんなで作り上げたものだったと、その日の夜に祖母から聞いた。
「みんなで競争してたんだよ~孫たちが美味しいって言ってくれたもんは商店街で売ろうって決めてね!みんな一つでも自分の考えたおかずが店先に出る事が嬉しくってね~あのかぼちゃの巾着は私のだよ!」
祖母が毎日のお弁当作りを楽しんでいる事を知った私は、かつて自分が言った祖母への文句にずっと悔やんでいた気持ちを、あの日始めて詫びた。
泣きながら謝る私に祖母は、(文句なんて言ってたかい?)と微笑んだ。
毎日友達と囲む昼食の時間。今でも鮮明に思い出す事が出来るのは、祖母のお弁当があったからだ。
友達との関係に悩んだり、勉強についていけなくなったり、好きな人に振り向いてもらえなかったり。今にして思えば全然大した事ではなかった。でもあの頃はそのひとつひとつに心が砕かれる思いだった。
でも、どんなに辛くて嫌な事があったときでもお弁当箱を開ける瞬間だけはワクワク出来た。食べている間だけは無心で幸せを感じていた。愛情を込めて詰めてくれた祖母と、その先にお惣菜を作ってくれた商店街の人達の顔が浮かぶ。
母や祖母が優しく、時に厳しく理沙を躾てくれたその姿に、私も理沙と同じように大切に育てられたのだと思い出した。
時計を見ると、夕方の六時を過ぎていた。まだ間に合う!行かなくちゃ!
ガスの火を消して、エプロンを外しカバンの中から財布と自転車の鍵を持って理沙の部屋のドアを開けた。
「理沙、おでん出来てるから!」
「えっ、何!どこ行くの?」
私の慌てように驚いたのか、ベッドに寝そべってスマホをいじっていた理沙が飛び起きるようにして玄関へ走る私の後を追いかけて来た。
「1時間で戻るから!先に食べてて!」
「どこ行くの!」
マンションの重たい扉が閉まっても中から理沙の声が聞こえたけれど、構わず自転車置き場へと走った。
実家がある商店街は駅のすぐ近くで、夕方のこの時間は物凄く混んでいる。実家までは車で15分、自転車だと25分はかかる。でもこの時間はきっと自転車のほうが早い!ほとんどの店が7時から7時半までの間に店じまいを始める。お惣菜は7時前にはほとんど売り切れてしまうのだ。