足が止まり、肩から力が抜けていくのがわかった。(お弁当の隙間惣菜)と書かれたポップの下にプチトマトは見当たらなかった。
肩を落とす私に気づいていないのか、母はどんどん自分の店へと進んで先に入って行く姿が見えた。
「よぉ~わこちゃん!」
米屋のおじさんのダミ声が響いて、ほのかに笑顔になれた私は頭を下げてからまた歩き出した。
実家である和菓子屋は商店街の中心部より少し先にある。そこにたどり着くまでに母と私は何度も手を上げ頭を下げた。みんな笑顔で美和ちゃん、わこちゃんと声をかけてくれた。言いようのない暖かさが胸にこみ上げる。
日々の仕事と家事に育児。思い通りにならない事に目をつぶり、言葉も笑顔もなく頷くだけだった私に娘が微笑んでくれない事は当然だった。
追われるままに過ごしている内に大切にしなければならない事を忘れていたような気持ちになった。
「はい、これ!持って帰んなさい!」
一足先に店から母屋へ入って行った母は、白いレジ袋を持って戻って来て私に差し出した。
「かぼちゃの巾着とプチトマト」
これが欲しかったんでしょ!と微笑んで言う母
あの三年間のお弁当に、三十年前の祖母と商店街の人達、そしてその思いを受け継いだ母の思いを感じてほっこりと暖かい気持ちが蘇った。
この思いを私も必ず娘に残さなければ。
その為に、祖母に習ってお弁当作りを楽しもうと思った。