そしてまたその翌日もお弁当箱の隅には里芋の煮っ転がしが入っていた。
ため息と引き換えに口に入れた里芋は、砂糖と醤油の煮詰まった味が白いご飯と相まって美味しかった。そう、美味しかったのだ。
お弁当の煮物が何故か無償に腹立たしかったのに、美味しかった。
「いいなぁ、お弁当」
ある日、購買で買った菓子パンを頬張りながら言う美紀。(そぉ?)と苦笑いを浮かべながら私はお弁当箱の蓋で茶色く染まったご飯をそっと隠した。隠しながら、美紀が毎日購買の菓子パンを食べていると気づいた。
私はそれ以降祖母に文句を言う事が出来なかった。
そして高校二年になり祖母のお弁当にすっかり慣れた頃、いつものようにお弁当箱の蓋を開けた。と、いつもと明らかに違う光景が目に映る。
卵焼きに豚肉の野菜巻き、ほうれん草の胡麻和えと、いつもならそこにあるはずの煮物がなく、その隅にはプチトマトの中に黄色いとうもろこしをマヨネーズで和えたものが入っていた。たったひとつの赤いプチトマトがお弁当の見た目を素晴らしくかわいいものに変えていた。
「美味しそ~!今日はおばあちゃんのお弁当じゃないの?」
蓋を持ったまま放心状態の私に、美紀が顔を寄せて覗き込んで言った。
「もしかして理沙、自分で作った?」
「えっ、いや、私じゃない」
「あの汁の染み込んだご飯も美味しそうだったけど、こっちもいいね!」
お弁当箱を覗き込む美紀を横目で見ながらプチトマトを摘んでゆっくりと頬張ると、中からコーンが弾けてマヨネーズの酸味と合わさって美味しかった。
それ以降、毎回趣向が凝らされたお弁当の隙間。
プチトマトの中身は刻んだゆで卵だったり、カボチャと松の実を和えた物が入っていることもあった。大豆と雑魚の飴煮は友達にも好評でいつもみんなに摘まれてすぐになくなってしまった。
白いご飯の上には、パセリを細かく刻んでフライパンで炒った祖母特性のふりかけがストライプ柄にあしらわれていたり、コロッケの衣に使われるパン粉が細かくなって冷めてもサクサクとしていたり、祖母のお弁当は日毎に進化していった。
母が作る夕食にも出ないおかずが幾つもあって、祖母のアイデアが何処から来るのか不思議に思いながらも毎日お弁当箱の蓋を開ける事が楽しみになっていった。
「あっ、これ!もしかして商店街のお惣菜じゃない!」
毎日菓子パンを買っている美紀が、お弁当の蓋を開けるなり指さした先を見るとかぼちゃを巾着絞りした上に甘露煮のような照りをつけたレーズンがひとつ載せてあった。