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『お弁当の隙間』黒藪千代

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「おでん?」嬉しくも、楽しくもなさそうな感情のない声に、朝ごはんの洗い物をしながらちょっとだけ顔を上げて(そう)と小さく言う。
「おでんの残りなんてお弁当に入れないでよ?!」
 今度はたっぷりと感情を込めて言う理沙。私はまたちょっとだけ顔を上げてうんうんと二回頷いた。
 返答が思いつかずに頷いて、せめて笑顔だけでも向けたいと思ったけれど、上手く笑えず目の下がヒクヒクと痙攣する。
 カチャカチャと食器の擦れる音を頭の奥の方でぼんやりと感じながら、ふとあの頃祖母が作ってくれたお弁当の中身を思い浮かべた。

 実家は、商店街の一角で和菓子屋を営んでいる。お店の仕事は早朝のまだ外が暗い時間から始まる。忙しい母に代わって高校三年間の私のお弁当は祖母が作ってくれていた。
 思えば、今の理沙のようにお弁当に煮物を入れた祖母を責め立てた事があった。
 煮物をお弁当に入れると、どうなるか。私自信がよく知っている。
 朝からカバンの中で揺られ、生暖かい教室の隅でお昼時がくるまでの間、煮物はじんわりと汁を放出し白いご飯に色をつける。お弁当箱の蓋を開けた時にはご飯の半分が茶色く染まっているのだ。
 年頃の女子高生がお弁当に茶色いシミを作ったご飯を目にする事がどんなに恥ずかしかったか。お弁当箱の隅に毎回押し込むように入っている大根や里芋の煮物を向かい側で一緒にお弁当を広げている美紀に見られない内にと蓋を開けるなりすぐに口に入れていた。
 だけど、作る側になった今になってあの頃の祖母の苦労を思う。毎日、毎日お弁当を作る事がこんなにも頭を悩ませる事だと、あの頃は考えもしなかった。
 子供に持たせるお弁当は容赦なくカバンの中で揺さぶられる。その光景が想像出来ると、少しでもきっちりと隙間を埋めたくなる。
 あの頃の自分を思い出すと、今の理沙に言い返す言葉もない。

 中学までは給食だった。給食も楽しみではあったけど、決められた献立をみると、がっかりする日は必ずある。唐揚げや生姜焼きのお肉は好きなのに、カレーやシチューに入っているお肉は苦手で食べられなかった。
 でも、お弁当は違う。基本、好きなおかず!だって家族が作ってくれるのだから。何の疑いもなくそう思っていた私は、毎日お弁当箱の隅に入っている煮物がだんだんと許せなくなっていった。
 何度も繰り返し祖母に文句を言った。祖母はその度に(ごめんよ)と言って困った顔をする。理不尽な私の文句に一度も言い返す事はなかった。

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