そうしてマミちゃんは私の方をふり返った。初めて会った日と同じ、マミちゃんの大きな瞳には私が映っていた。その瞬間、溢れるように思い出した。小学生だった私が思っていたことを。マミちゃんを夏みたいな人だと思っていたことを。今にも泣きだしそうな、どこか水分を含んだような空気を纏うマミちゃんの横顔を。それをガラス越しに眺めていたことを。でも、どうしてそんな風に思ったんだろう。どうしてそれを、思い出したんだろう。
「泣くな、男だろって」
遠くで音がする。目を閉じて耳を澄ます。淡く、ブルーがかった景色の中で、マミちゃんが頬杖をついている。小学生の私は、その姿をガラス越しに見ている。
「男は簡単に泣くもんじゃない、って。お父さん、見た目どおりの厳しい人だったから」
ふにゃりと笑ったマミちゃんは、あのとき、大きく見開いた私の目に映るものを見ただろうか。私を通して見た、自分の姿を。
「マミちゃんじゃないの、私。本当の名前は、圭介っていうの」
その言葉を、私は遠くから聞こえる夏の音といっしょに聞いていた。お祭りの喧騒、子どもの笑い声、再放送のアニメのテーマ曲、ラジオ体操、花火。雨が降る前の、空で鳴る風のような音。でもそれらは頭の中で鳴っているだけ、記憶の中の音だった。マミちゃんの言葉だけが、現実だった。
「麻糸の麻に美しいで、マミ。子どもの頃、私のことを唯一理解してくれた大好きな友達の名前なの。好きだった男の子のことも、なんでも話せた友達。小学校の卒業と同時に転校しちゃったんだけど、お別れの日にね、二人だけでここに来たの。麻美ちゃん、ここが好きだったから。また会えるよねって言い合って。でも私は、どこかでもう会えないってわかってたの。すっごく遠くに行っちゃうってことを、よく理解してたから。だから言ったの、私はずっと元気よって。麻美ちゃんがどこかで元気で生きているなら、私もずっと生きていけるからねって。そう言ったときの気持ちがね、今もずっと続いてる感じ。それってすごいことよね」
マミちゃんの目に、おもちゃ箱から飛び出してきたような観覧車はどう映っていたんだろう。私を屋上遊園地に誘う日は、どんな気持ちの日だったんだろう。観覧車を眺めながらマミちゃんは何を思い出し、何を考えていたんだろう。
きっと。
私は想像する。マミちゃんは観覧車を眺めながら、記憶の中の麻美ちゃんに語りかけていたんだ。同じ空の下、どこかで今日も生きている大切な友達に、マミちゃんは会いに来ていたんだ。夏のように美しい横顔は、だからだったんだ。
「お店がなくなっても、たまにはこうやってお喋りしてね」
マミちゃんの言葉に、私は「もちろん」と頷いた。
ねえ、だって私たち友達じゃない。ずっとずっと、友達じゃない。心の内で呟いて、マミちゃんの大きな目をじっと見つめた。きっとマミちゃんも同じ。同じことを思ってる。そんな確信が当たり前のように自分の内にあった。大人と子ども。それよりも、もっと大きな確信だった。
「アサミー!」