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『美しい人』村崎えん

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 例えば、その人が生きていてくれればそれだけでいいと、どこかで幸せでいてくれればそれでいいと、思える相手に出会えたならば、それは素晴らしい人生だと思う。
 その人に二度と会うことがなくても、歩いている道の先が二度と、その人の歩む道と交差することがなくても、一日のうちたった数分だけでも、いっしょにいられた幸福の時間を思い出して笑うことができるなら。嬉しいことも悲しいことも、そっと、心の中で語りかけることができるなら。やっぱりそれは良い人生なのであって。他人がどう言おうともどんな目で見ようとも、勝手な評価を下す他人はその幸せな人生のわき役にすらなれないのだから、絶対に負けない。圧倒的に強い。でも、そんなふうに思える人に出会える人って、どのくらいいるのだろう。私にはそんな出会いがあるだろうか。
 そんなことを最近はよく考えるんだけど、友達には絶対に言わない。頭がお花畑だとか、少女漫画の主人公気取りだとか、そんなふうに笑いものにされるのが目に見えているから。
 恋だなんて言っていない、その感情がなんなのか。相手が異性だとも限らない。だけどきっと、同い年の友人たちの頭の中で、それは自動的に恋愛話に変換され、空想の相手は容姿端麗な男の子だと決めつけられる。だけどそうじゃない。そんな話じゃない。
 確かに馬鹿みたいなことかもしれない。お花畑な、少女漫画な。だけど考えてしまうのは、私が少しだけ大人になったからなのかもしれない。少女漫画な思考と大人になることは相反しているから矛盾しているんだけど、でもそうだとしか考えられない。私は少し大人になった。だから、マミちゃんは秘密を打ち明けてくれたんだ。

 マミちゃんとは、私が小学三年生のときに出会った。九年前だ。
 家から近い商店街の小さな本屋のレジに、マミちゃんはある日突然現れた。それまでは、メガネの怖そうなおじいさんが店番をしていたから、美しいマミちゃんが店番をするようになったことはちょっとした事件だった。
 同級生の男子たちは店のガラス越しにマミちゃんを眺め、マミちゃんが気づくと騒ぎながら一目散に逃げたりしてはしゃいでいた。女子はそんなことはしないけど、教室で静かに噂話をしたりした。
 お嫁に行って、戻って来たんだって。デモドリ、って、お母さんが言ってた。
 芸能人のような仕事をしている男の人が恋人で、一緒に逃げたんだって。
 逃げたってどうして?
 さあ、反対されたんじゃない?
 あの本屋さんのおじいさんに?だったらもう仲直りしたってこと?
 でも、結婚はしていないそうよ。
 ねえ、本屋さんはあの女の人のお父さん?それともおじいちゃん?
 知らないわよそんなこと。

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