名前を呼ばれてふり返る。同じクラスの真由と沙央梨が、手を振りながらこちらに向かって歩いてくるところだった。笑顔で手を振り、それにこたえる。
「ねえ、駅前のパン屋にさ、すっごく綺麗な店員さんいた」
「そうそう。アサミも見てきて。ホント綺麗だから」
二人はベンチに座るなり忙しなく話し出す。「でも年齢不詳」「それでもすっごい美人だよ」口々に言い合って、ガサガサと鞄の中を漁っている。
「夏みたいな人でしょ」
口にすると、また、溢れるように思い出した。混ざり合わなかったはずの気持ちが体の真ん中に集まってくるような感覚に、思わず目を閉じる。淡い夏の色が、瞼の裏いっぱいに広がる。
「なにそれ、意味わかんない」
「アサミって変わってるよね、たまにわかんないこと言うんだもん」
「ジャンケン強いし」
「関係ないじゃんそれー」
真由と沙央梨は口々に言い、声をあげて笑っている。目を開けて、一緒になって笑って、別の話を始める二人から視線を外す。
わかってもらおうとは思っていない。わからないことが悪いわけでもない。ただ、私にはわかったことがある。美しい、がなんなのかということ。ゆっくり回る観覧車を見ながら心の内で語りかける、そんな相手がいるということ。そんな人に、出会えたということ。