そのときのマミちゃんの顔を、ときどき思い出す。「寂しかったのかも」そう付け加えたマミちゃんの、ぼんやりと遠くを見るような目。どういう意味?そう訊いた自分の声。土に汚れた小さな靴と、スカートから覗いた白く細い脚。クリーム色の、汚れ一つないスニーカー。その後で向けられた、マミちゃんのいつもどおりの笑顔。
ああ、そうか。あのとき私は気づいたんだ、決定的に。マミちゃんは大人で、私は子どもだって。違うんだって。改めて気がつく必要がないくらいに当たり前だったのに。
だけど気づかないふりをして、私はずっとマミちゃんの隣に座り続けた。名札の義務から、重たいランドセルから卒業しても、学校指定の鞄に辞書や教科書を詰め込んで、スカーフの長さに細心の注意を払う日々に入っても、マミちゃんが、お母さんより八つも年上だと聞いてからも。
年齢なんてただの数字だと思った。大人の年齢なんてピンとこない。だって私はまだ子どもだから。そう、夏に対する気持ちと同じように、見ないふりを決めたはずの混ざり合わない思いを、疑問もなく抱いたまま。
最近の寄り道は、もっぱら駅ビルの屋上になっている。小さな観覧車が、絵の具で塗ったように青い空を背景にして、ゆっくりと回り続けている。それを、私はひとりベンチに座って、飽きもせずに眺めている。そうして色々なことに、考えを巡らせている。
マミちゃんの本屋が閉店してから一ヶ月が経った。
もともと、もっと前から閉店の話は出ていたらしいんだけど、店主であるおじいさんがこの一年で本格的に体調を崩して、自分の代で畳むと決めたそうだ。
「今月いっぱいで閉めることになったの。ごめんね、なかなか言えなくて」
いつもどおり本屋へ遊びに行った私に、空色のカップを手にレジへと戻ってきたマミちゃんは笑顔でそう言った。文化祭の演劇で、一番人気だったセリフのない役をジャンケンで見事勝ち取ったから、その報告をするつもりでいた私は面食らった。だから、店がなくなるという話を信じきれないまま、
「なんで?マミちゃんがいるのに。マミちゃんが店長でいいじゃない。閉める必要なんてないよ」
思ったとおりを口にした。そして同時に、そういえば、と思い出したのだった。小学生の頃の同級生たちの噂話を。
「ねえ、おじいさんは、マミちゃんのお父さんなんだっけ?すごく今更だけど」
私の問いに、マミちゃんは笑った。本当に今更ねって。
昔から──マミちゃんが本屋のレジに現れてから──おじいさんも店にいた。普段はほとんど奥に引っ込んでいたけれど、たまに出てきては棚を見たり、立ち読みの長い客に睨みをきかせたりして。だけど、おじいさんとマミちゃんが会話しているところは、たったの一度も見たことがない。親子だろうと思い込んでいたけれど、ちゃんと聞いたことはなかった。
「そうよ、私のお父さん」