マミちゃんと初めて言葉を交わしたのは、夏の終わりの頃だった。近くに住むおばあちゃんと一緒に、UFOの本を買いに行ったときだ。その頃の私は、夏休みに見たテレビ番組の影響でUFOに興味を持っていて、そういう本が欲しいと思っていたんだけど、お母さんに頼んでも買ってくれなかった。だからおばあちゃんに泣きついた。私が学校に行っている間におばあちゃんが買ってきてくれたのは、だけど『日本の妖怪大全』なる大げさな上に間違った本で、これじゃないとがっかりしたら、一緒に行こうと言ってくれた。おばあちゃんじゃ、妖怪もUFOも区別がつかないからって。
マミちゃんがレジに立つようになってから、本屋に行くのは初めてだった。レジをしてくれるのはあの女の人かもしれない。そう意識した途端、胸が異常なほどにドキドキしたのを覚えている。
ガラスの扉を開けて店に入ると、透き通るような声で「いらっしゃい」と聞こえた。レジにはマミちゃんがいた。声を聞くのは初めてだったのに、知っている気がした。ああやっぱり、こんな声だった。そう思った。子ども向けの本の中にUFOの本はなくて、だから大人が読むような本をレジに持って行った。お金はおばあちゃんが払ったけれど、レジのカウンターに本を置いたのは私だったから、マミちゃんは私に話しかけてきた。
「宇宙人、好き?」
長いまつ毛に縁どられた大きな目に、私が映っていた。海へ行った友達が買ってきてくれたお土産の桜貝、マミちゃんの唇は、それと同じ色をしていた。どこからどう見ても、綺麗な人だった。綺麗なお姉さんに緊張して、私は首を縦に振るのが精一杯だった。そんな私を見て、だけどマミちゃんは、私を子ども扱いしなかった。
「私も好きなんだ、宇宙人。ロマンがあるもん」
大人は子どもに話しかける時、自分のことを「私」だとか「僕」だとか、言わない。先生は「先生」と言うし、友達のお母さんは「おばちゃん」と言う。子どもの目を通した役を演じているみたいに。マミちゃんの場合は「お姉さん」だろうか。「お姉さんも好きなんだ」って。だけどマミちゃんは自分のことを「私」と言った。そして私のことを、「あなた」と言った。「あなたはどうして好きなの?」と。
不思議だから。そう答えたら、マミちゃんは大きな目をふにゃりとさせて笑った。そうして帰り際、名前を教えてくれた。
「私はマミ、マミちゃんでいいよ。あなたは?」
心臓が飛び出してくるんじゃないかと冷や冷やしながら口を開いて、慎重に声を出した。アサミよ、って。麻糸の麻に美しいで、麻美。お母さんが知らない大人に漢字を説明するときに使う言葉を、私はそっくりそのまま口にした。そうすると急に大人びた気分になった。