「若そうなのに知ってるんだね」
「父の影響です。幼い頃から聴かされてて、気づいた時にはファンでした。まあ一種の洗脳みたいなものですね」冗談混じりに言うその顔はキラキラとしている。「こちらです。ごゆっくりどうぞ」
ぺこり、とお辞儀をすると彼は混み合ってきたレジに向かって小走りに駆けていった。ふと目をやると陳列棚の傍にタッチパネルの機械が置いてある。『商品検索・位置情報はこちら』でかでかと表示されていた。
玄関口の方へ歩いていると、若い女に声を掛けられた。目のくりんとした可愛い子だったので一瞬たじろいでしまう。
「ドライフルーツ入りのジェラートです。よかったらご試食いかがですかあ」プラカップがいくつも載った盆を持ち、彼女は俺に微笑んだ。カップの中には色鮮やかなアイスクリームが入っている。甘党としてはほっとけない。思わず手が伸びる。
「うん。旨い」
「ありがとうございます。種類が色々あるので、宜しければ他のも試してみてくださあい」言葉に甘えて3つ頂いた。どれも洒落た味で、甘さ控え目なのに美味しかった。
「オシャレだなあ。商店街の団子とは大違いだ」
「えっ。商店街のお団子、あたしの大好物ですよ。アレはアレ、これはこれの美味しさがありますよお」
彼女にみたらしソフトのっけを教授して、帰路に就いた。ジェラートとCDの袋を両手に持ち歩き、俺は考えていた。
パネル操作で検索すれば済むというのに、わざわざ足を使い案内をしてくれたあの店員。商店街の団子を、あれはあれで大好物だと言ってのける女の子。二人には、人情味が無かっただろうか。マニュアル通りで心がない、と巷で言われる「最近の若者」だったろうか。違う年代の文化を疎ましく思っているのは、こちら側だけなんじゃないか。
商店街の外れまでくると『御堂鳥獣店』と印刷された庇が見えてきた。浩司さんが経営するペットショップで、俺の職場である。役者になる夢から逃げ、行き場を失った俺はここでアルバイトをしている。
「ただいま」ガラス戸を開けて入ると、奥から空が駆けてきた。
「フワさん。悪者はいたの」空はここの常連で、学校帰りや休みの日にはしょっちゅうここに顔を出す、動物好きの小学四年生である。
「いなかった。駅向こうまで行ったんだけど」
「珍しいや。フワさんあっち大嫌いなのに」
「大嫌いだから行ったんだよ。悪いやつがいるかと思ってさ。これお土産」ジェラートの箱を掲げ小躍りする空の頭をひと撫でして、店の奥へと向かう。レジの前で新聞を読む浩司さんの姿が見えた。
「休憩いただきました」
「おう。……仕方ないから、俺がやるか」
「え」