「しおちゃん、おばちゃん夢見たの。透ちゃんの」
「もう、その手には乗らない」
「ほんとだって」
「ほんと?」
「今度はほんとよ。透ちゃん空の上からこれね、レインスティックを振ってたのよ。それを受け取ってたのが、なんとしおちゃんだったの。そしたらね、ばらばらってあの日みたいに雨が降ってきてね。たったそれだけの夢。でもね透ちゃんのメッセージなのよきっと」
「どういう意味?」
その問いかけに百合子さんは答えずにいて、息をふうっと軽く吐き出すと、透ちゃんからのプレゼントよ、はいこれ渡したからねってレインスティックをわたしに差し出した。でもこれってって百合子さんがもらったのよっていうわたしの言葉をやわらかく制した。
「後は煮ようが、焼こうが雨降らそうが、しおちゃんしだいだから」
茶色い筒は、百合子さんの体温で少し温かかった。
「しおちゃん、透ちゃんの形見ももらわなかったんでしょ。やせがまんは毒よ。大事にしなさい」
透の形見。雨の種。百合子さん。胸の奥がじんとしそうだった。
<グリーン・サム>から見えるメリーゴーランドに視線を放つ。むかしむかしの遠いあの日みたいに、色とりどりの馬たちが濡れていた。
館内の<雨が歌えば>のメロディを背中で聞きながら、関係者通用口を出る。
鞄の中には百合子さんから譲り受けたレインスティックを寝かせたまま入れた。わたしが歩くたびに、違うリズムが鞄の中からはみだしてくる。
青い傘に落ちるどぼっていう雨の音の合間を縫うように、筒の中で植物の種達がこすれあって音を鳴らした。
あめのたねがわたしのなかにひびいてきて、あしもとからそれはやってきてひかがみを通ってうなじを通過してひとみのなかに着地した。そしてぼとぼとというほんとうの雨音の傘の中で、わたしはひとりぬれそぼった犬みたいに泣いていた。