出来上がった手袋は、母が自分に編んだものより、もっと抽象画っぽいモザイク模様になっている気がした。一筋縄ではいかない人生のようにも見えるし、皆の思いが積もり積もっているようにも見える。
――伝統って感じだな……。
雅美の声を聞いて、和也さんが近づいてくる。
「おおっ、雅美にしてはよく出来てるよ」
「雅美にしては余計!」
「はいはい」
膨れっ面の雅美に、和也さんが微笑む。
「さて、もうひと仕事するかー」と、雅美は新しい編み物に取り掛かる。
「あれっ?編み物好きになっちゃった?今度は何編むの」
編み物嫌いの雅美の想定外の行動に、和也さんが雅美の顔を覗き込む。
「ひ、み、つ」
雅美は編み物に目を落としたまま、つれない応対をした。
「なんだよー、意地悪だなー」と和也さん。
雅美は意地悪を装った表情をして顔を上げた。
「ふふっ……、実は、母さんたちの手袋!」
「たち……?」
和也さんが一瞬キョトンとする。
「そう、たち!」
雅美のだめ押しに、「なるほど……」と、和也さんは笑顔になった。
――もしかしたら、お父さんとお母さんはもう一度手を繋げるかもしれない。あたしの編んだ手袋で……。だって、それがこの街で紡ぐ我が家の伝統なんだから……。
疲れた肩をグルグルと回すと、雅美はまた、編み物に取り掛かる。母たちのモザイク模様を想像しながら。