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『手と手』十六夜博士

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 母は編み物をする手を止めもせず、「自業自得よ」と言った。
「何でよー、ヒールが悪いんでしょ」
「バカね。全速力で毎日走られたら、ヒールだって堪らないわよ。そりゃ、折れるわよ」
「だったら、お母さん、朝、起こしてよ」
 雅美は膨れっ面をする。
「バカね。社会人にもなって、母親に起こされていてどうするの」
 母の言い分はもっともだ。

 雅美は母と行きつけの喫茶店でブランチをしていた。毎週、土曜日か日曜日のどちらか、あるいは両日、この喫茶店に来るのが、雅美と母の習慣だった。雅美が物心ついた時にはすでに習慣になっていた。母によれば、雅美が赤ん坊の頃から来ていたとのことだ。
 この喫茶店は、雅美がいつも駆け抜けるK駅の西口商店街の一角にある。雅美が生まれる少し前に出来たそうだ。サイフォンで入れるコーヒーが美味しい。
 お店が混んでない時は、母は編み物をしながら、この喫茶店に居座る。雅美は、ブランチを食べた後は、居座ったり、友達と出かけたり、様々だ。
 四半世紀近く通っているので、マスターは親戚のおじさんのようで、ほとんど我が家の歴史を知っている。

 雅美は今、母と二人で、母の実家で暮らしていた。2年前、母の実母にあたる祖母が亡くなるまでは、3人で暮らしていた。父のことはよく知らない。なぜなら、雅美が生まれてすぐに父と母は離婚したからだ。祖母も母も父のことを話したがらない。なので、雅美も父のことは死んだと思うことにしている。祖父も、雅美が生まれる少し前に亡くなっていた。祖父は、小さな貿易会社を営んでいて、結構資産を築いたらしい。だから、こんな都会のK駅から10分程度の好立地に一軒家で暮らせている。難点といえば、男手がないということだ。
 母は趣味と実益を兼ねて、編み物の先生をやりながら、雅美を育てた。シングルマザーの家庭だったが、あまりお金に困った経験はない。ただ、女の細腕だけで、お金に不自由なく子育てするのは大変なはずで、結構、祖母、つまり祖父の遺産から援助を受けていたはず――、と雅美は推察している。
 母の編み物好きは、祖母譲りだ。母が生まれた1955年、この街にはある手芸屋が出来た。今となっては、全国に店舗を持ち、あまりにも有名なその手芸屋の本店がこの地で産声をあげたのだ。この出来事は我が家にとって運命的であったらしい。元々編み物好きの祖母は大喜びで毎日のように手芸屋に母を連れて通い、色取り取りの毛糸に魅力された。母は母で、産まれた時から色取り取りの毛糸に囲まれ、自然と編み物を好きになる。だが、何より母を動機付けたのは、手芸屋と母が同じ年に産まれたということではないか――。母は自分が手芸好きなのは運命だと信じている。親子二代でその手芸屋のお得意さんだ。当然、雅美も子供の頃から、その手芸屋に母と通っていた。その流れを考えると、雅美も編み物好きになってもおかしくないが、編み物好きは何故か雅美に遺伝していない。どちらかというと、身体を動かすことが好きだったからだと、雅美は了解している。

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