「あなた?」
「和代?」
「ごめんなさい、私がどうしても二人を会わせたいと思って……」
女性の前に座る彩乃さんが、二人の会話が始まるのを遮るように早めの口調で言った。
「元気か……」
「私は元気です……」
会話は途切れ、沈黙の時が流れる。
彩乃さんと僕は顔を見合わせた。
「とにかく、良か……」「乾杯していいかな」伸樹さんが僕の言葉を待たずに言った。
「久しぶりの再会に、乾杯したい」
僕は和代さんに目をやった。少し俯き加減にジョッキを見つめている。
「ダメかな……」
「そうゆうところですよ」
和代さんが小さな声を絞り出した。
「いつも自分の考えを優先して行動する。人に対して謝らない。すぐに感情的になる。それが別れた原因でしょ」
今度は和代さんが顔を上げ、伸樹さんが俯いた。
再び沈黙が訪れる。
「謝って下さい、ちゃんと。今まで悪かったって」
緊迫した雰囲気を場に相応しくない軽快なBGMが包む。僕は横目で彩乃さんの顔を窺った。彩乃さんは、ただ黙って伸樹さんを見つめている。
「すまん……悪かった、許してくれ」
伸樹さんが深く頭を下げ、そして和代さんが一つ大きなため息をつく。
和代さんはホッピーの入ったジョッキを手に取った。
「彩乃、お願い」
「え、何を?」
「乾杯するんでしょ。あなたが仕組んだんなら乾杯の音頭とってちょうだい」
彩乃さんは一瞬驚いた顔を見せた後、咳払いを一つしてジョッキを挙げた。
「父さん、母さん……久しぶりに二人が会えて良かったです。こうやって、家族皆んなで集まれるなんて、夢にも思ってなかった……田所さん、ありがとうございます」
僕は黙って首を振った。
「これから、残された人生を家族皆んなで支え合っていければ私は嬉しいてす。それでは、乾杯!」
四つのジョッキがぶつかる。
皆、照れ臭そうに、そして、なにより嬉しそうにホッピーを口にした。