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『自然な流れで、ホッピーで。』鷹村仁

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黙々と食べている。自分から話しかけてもいいのだが、父の手前なかなか出来ない。ここは母だけが頼りなのに、話しかけてくる素振りを見せない。こちらがジッと見つめて目があっても何も言わない。何を考えているのか全く分からない。そしてそのまま誰も何も話さない緊張の時間が流れていった。

 夕飯が終わり、母が「ホッピー飲みましょ。」と言ってきた。これから父と酒を飲むのかと思うとかなり気まずいものを感じたが、そのためにホッピーを買ったわけだし、これを逃すと全く話さずに3日間が終わってしまう恐れがある。
 マスターに習ったホウボウを捌いて、居間に運ぶ。母がホッピーと焼酎を用意する。グラスもガンガンに冷えていて『三冷』だった。母は用意している時に「お父さんも緊張してるのよ。」と悪戯っぽく小声で言ってくる。
「だったらもうちょっと喋ってよ。」
 こちらが文句を言うと、「自然によ、自然に。」と言って居間に行ってしまった。

ここまでが三人でホッピーとカルパッチョを囲むまでの一連の流れ。
「仕事はどうなの?」と緊張した空気の中、母が話題を振って来てくれたので、そこから少しではあるけれど父と会話が出来ている。かなりぎこちないが。

「あんた、お酒強いの?」
 母が聞いてくる。お酒を飲む段になったら話題を振ってくれるようになった。
「まあ、結構強いかな。」
「お父さんに似たのね。お父さん毎晩飲んでるのよ。あんたも飲んでるの?」
「そんなには飲んでないよ。」
「飲みすぎるなよ。」
 父がこちらを見ずに突っ込んでくる。
「それは自分の事でしょ。何言ってるのよ。」
 ケタケタと母が笑う。
「勇太はそんなに飲んでないって言ってるじゃない。」
「そのうちだ、そのうち。気を付けろって意味だよ。」
 父は恥ずかしさをごまかすようにホッピーを飲む。
「体壊してからじゃ遅いんだぞ。」
「それはあなたでしょ。この前お医者さんに『飲み過ぎないように』って言われたんでしょ。言ってる事メチャクチャ。ねぇ。」
 母が笑いながら同意を求めてくる。「そうだね。」と自分もおかしくてフッと笑ってしまった。父親はばつが悪そうだったが、この会話のおかげでなんとなく場が和んだ。そこからは福島を出て東京に行ってからの事や、現在の生活の事なんかをゆっくり話した。母は楽しそうに話を聞いてくれて、父はあまり話題には入ってこなかったが、時折頷いてくれていた。8年前に感じたあの反対する空気はもうどこにもなかった。
 三日間はあっという間に過ぎた。何か特別な事をするわけではなく、普段通り父は仕事に行き、母は家事をする。自分は母の手伝いをした。朝飯を食べて、昼飯を食べて、夕飯を食べて、そして三人で晩酌。そんな普通の事が嬉しかった。父とは初日と違い、二日目、三日目とたくさん話をした。話題ごとにすぐ説教じみた話に転換されたが、そんな説教も嬉しかった。まさか自分が父とこうして酒を飲むなんて8年前は想像も出来なかった。

「今度はあんまり間空けちゃダメだからね。」

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