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『自然な流れで、ホッピーで。』鷹村仁

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 着いてしまった。複雑な心境で荷物を持ち、新幹線を降りた。

 実家は8年前と何も変わっていなかった。二階建ての一軒家。この中に父と母がいると思うと緊張した。時計を見ると5時を指している。今日は日曜だし、帰る事は伝えているし、たぶん父はいると思う。いや、逆にいないかもしれない。どっちだ・・・。またしてもあれこれ考えてしまった。一呼吸おいて、落ち着いて玄関を開ける。
「ただいま。」
 『普段通り』を忘れてしまったが、『普段通り』に、緊張しているのを悟られないような声をだした。と思う。
「お帰り。」
 居間の方から母親の声が聞こえる。父親の声はなし。しかし玄関に靴はあるので確実に家にはいるはずだ。そっと居間の襖をあける。そこも8年前と変わっていなかった。ソファーが二つL字で置いてあり、その対角線上にテレビが置いてある。父と母はソファーに座ってテレビを見ている。
「お帰り。」
「ただいま。」
 母が久しぶりに見たと言う表情を浮かべ、にこやかに迎えてくれた。父親はこちらを見ていない。
「なんだ、連絡くれれば迎えに行ったのに。」
「ああ、ごめんね。あと、これ。」
 福島に着いた時に買った袋を渡す。母が中をのぞき込む。
「何これ?」
「ホウボウ。」
「ホウボウ?あんた捌けるの?」
「うん、教えて貰った。ホッピーと合わせて飲むと美味いって。」
「お父さん、ホウボウですって。捌けるんですって、すごいわね。」
「・・・。」
 テレビから目を離さない。ここでも無視。母親がこちらを見てしかめっ面をする。
「じゃあ後で食べましょう。それでいいわよね、お父さん!」
 わざと母は語尾で父を威圧した。
「・・・ああ。」
 気まずそうに返事をする父。母はもう一度しかめっ面をこちらに向ける。なんだかおかしかった。
「じゃあ、晩御飯の用意するから荷物置いてきなさい。」
母はホウボウを持って台所に行ってしまった。いきなり父親と二人きりはきついので、そそくさと二階の自室に行くことにした。
 自分の部屋のドアを開けると、ここも8年前と何も変わっていなかった。出て行ったままになっている。中学、高校の時のアルバム、当時買った雑誌や漫画等が置いてある。懐かしさも手伝ってそのまま一階に戻る事はせずに見入ってしまった。

「ご飯よ!」
母の呼び掛けで、時間の経過に気がついた。時計を見ると7時を指している。
「はーい!今行く!」
自分の返事にも懐かしさを感じてしまった。こんなやりとりも久しぶりだ。そしてご飯が自動で出てくる事にも幸せを感じた。母に言ったら怒られるだろうが。見ていた雑誌を閉じて一階へと向かう。

案の定、食事の時は父とは全く会話がなかった。母とは会話してもよさそうなものだが、母からは何も話しかけてこない。チラッと母を見る。
「・・・。」

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