と彼はそう言い、私は『そうだよね。』と言って笑った。2杯作戦が3杯になったのだ。
彼は、ソトを、瓶のラベルの上辺より少し下の位置くらいまで、グラスに注ぎ、飲み始めた。
私も同じくらい注ぎ、飲み始めた。
『焼酎の味が強くてきつい』と思ったが、表情には出さない。
彼は一口目を飲み終わると、そっとソトを注ぎ足そうしたので、
『え、注ぎ足すの?もったいなくない?』
と言ってやった。少し勝ち誇った気持ちになっていたかもしれない。
すると彼は声を上げて笑い、
『ばれたか、本当にお前酒強いな。飲んでて楽しいわ。』
と言い、瓶を置いた。
こんなことで嬉しそうに喜ぶ彼は、やはり愛おしいと感じた。
私たちはそれぞれナカを2回おかわりし、ソトをおかわりすることなく、飲みきった。
『いつも飲んでも顔変わらないのに、今日は珍しく赤いな。』
店を出たところで、彼はそう言った。
確かに、最後のホッピーで、いつもより頭がふわふわしている気がしたが、
『店が少し暑かったからかな』
と返事をした。
『なんか赤くなってるの、少し可愛いな。』
さらりと彼が言い、歩き出した。
彼にそんなことを言われるのは初めてのことだった。
私は身体の底から湧き出る嬉しさで一気に熱くなった。
と同時に、笑顔がこぼれ、紛らわすために、
『少しって何?』
と言った。
さっきより顔が赤くなっていることを感じたが、この暗さなら彼にばれないだろうと、赤提灯の光の淡さに初めて感謝をした。
『じゃあここで。また飲もうな。』
私のアパートの前に着き、彼はそう言った。
彼は毎回、少し遠回りをして、私の家の前で送ってくれるのだった。
『また飲も。おやすみ。』
私がそう言うと、彼は立ち去っていった。
私はすぐに家に入る気になれず、アパートの階段に座ると、居酒屋に入る前より存在感を増した満月が目に入った。
彼に『月が綺麗ですね。』くらい言えば良かったなと思った。