その後一瞬間があって、なに? ホッピーマンってってふたりでその間を破るように笑った。レストルームの他の部署の人がちょっと迷惑そうにこっちをみてた。
そんなぎりぎり昼下がりに無駄口叩いていたことも忘れていた4時間後。
わたしはデパートの前の駐輪所にいた。隣のとなりのとなりぐらいに人影があった。
「マジ? マジ?」
って声だけが聞こえる。助けるべきか否かって思っていたら月影に照らされたその人の横顔に見覚えがあった。つまりホッピーマンだった。
「あのぉ、どうしましたか?」
急に声を掛けられたにもかかわらず、その時彼は驚きもしなかった。とにかく淡々としていた。
「え? あぁあの時のデパ地下の人? ぼく、鍵なくしました」
「鍵? あぁ自転車の」
自転車を見た時、その自転車は何年前のものだろうかというぐらい年季が入っていた。大型ごみの一歩手前ぐらいの古さだった。
ちらっとわたしをみて、カンちゃんは嘆く。
「ほら、ほら。みたってくださいよ。この駐輪所のぼくのナンバー」
そういうから、腰をかがめてみる。<404>だった。
「これさ、ふつう欠番でしょ。なんか嫌な予感がずっとここ使う時から思ってたんやけど。not foundってよくないよね。ここ古いからさ、そういうこと敏感じゃないんかな?」
鉄の味がしそうな自転車に乗るこの人は、駐輪所のふるさを嘆いている。それだけで結構、わたしにとっては興味深かった。
ひとしきり喋った後、カンちゃんはなんか糸が切れたみたいに笑いだした。
なになに? ねじぬけた? ばぐった?
「こんな月夜の晩に、おもろぉ」
いやいや、このひとのリズムが読めないけど、きらいじゃない。
「だってnot foundやったのに、あなたをミッケみたいな?」
ってカンちゃんはのけのけと言った。裏がなさすぎて、かえって怪しいのだけれど、なんかこのひとのなにかに誘われてる。そして自転車かたげた彼と夜道を歩いた。
気づくと、カンちゃんはその日もホッピーを持っていた。どっちも重そうだからホッピーを持ってあげるっていうのに、これは俺がもっとかんと意味ないんでって、きっぱり断られた。
ちょっと触れられたくないなにかに触れてしまったみたいだったので、すぐにわたしは手を引っ込めた。