私が健一以上に大げさな反応をすると
「お前声でけーよ!」
と健一がツッコミを入れる。そんなやり取りを、大将も館田さんも笑顔で眺めている。
あ、楽しい。
今、この瞬間、私はそう思った。でも、同時にとてつもない虚無感が襲ってくる。私は、この時間が長くは続かないという事を心のどこかで知っている。ナオキとセックスをした日、カーテンの隙間から差し込んだ太陽の光で目を覚ました朝。田村が「俺がお前を養う」といった瞬間。気持ちよかったり、嬉しかったり、楽しかったり。そう思った瞬間が一番のピークで、そこからは終焉に近づいていくのだ。今、楽しいと思ってしまった以上、これ以上楽しくなることはない。それを知っているから、寂しい。それを知っているから、悲しい。でも、それを自分ではどうにもできないことも、知っている。
「で、二人はどういう関係なの?」
テーブルの上には、食べかけの串焼きや野菜、煮込みなどが心地よく散らかっていて、シャリキンは残り3分の1ほどになっている。隣に健一の姿がなく、周りを見ると煙で白く霞んだ店内は、入店時より空きはあるものの、やはり別世界に飛んできた感じは否めない。
「お姉ちゃん、聞いてるかい?」
館田さんは、先ほどより少し顔が赤い。
「あ、健一?健一は・・・弟。弟です」
「えぇ!?姉弟なの!?」
「そうなの!仲いいっしょ?」
「道理で会話の息がぴったりだと思った!」
すると、健一が戻ってくる。
「何、何、何の話?」
健一も頬が赤らみ、酔っているようだ。
「私たちの話。私達、姉弟なんだよねって話してたの」
私は健一の肩に手を回してそう答える。もちろん、私たちは、姉弟ではなく、ただの同い年の友達だ。でも、なぜか私は、友達でも恋人でもなく、弟と答えた。恋人だって、友達だって、いつかは終わってしまう。だったら、終わらないものがいいじゃん。家族。血のつながりは消すことができない。だからそう答えたのだろうか。でも、家族だって、元々は他人から始まる。よくわからない。てか、思考がめんどくさくなってる。ってことは酔ってるってことか。
「そうなんすよ、うちら似てないですよね?」
健一は姉弟ネタに乗っかる。元々健一はそういうノリが嫌いではない。
「いやいや、そんなことない、よく見ると似てるよ!」
館田さんの返しに思わず「適当だな!」と突っ込みたくなる。
「はい、シャリキン黒ね!」
大将が健一の前にジョッキを置く。
「え、早くない?もう飲んだの?」
私は、いつの間にかシャリキンを飲み干している健一に驚く。
「早くないよ、ってか姉ちゃんのほうが早いじゃん。もう、シャリキン4杯目だよ?」
「え?」
「お姉ちゃん、気を付けなよ?シャリキンは足に来るから」