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『君とセピア色』大知牧

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 東京と行っても、別に距離は遠くない。ここは千葉だから、電車で川を渡ればすぐだ。
 ただ、きっと今のようにはいられない。
「ねえ、ミー君。覚えてる? いつか、長野の叔父さんに連れてってもらった、街はずれの駄菓子屋」
 ミー君は聞いていない。足元に這うアリを見ている。
「あそこで、いつかホッピーを飲もうって言ったよね」
 私は段々と声を震わせた。きっともう届かない。
 自分でも泣きそうになっているのが分かった。
「私達……、もう大人になったよ」
 私はそっとミー君の肩に寄りかかる。陽だまりの布団のようなニオイ。
 触れるのが当たり前みたいな、慣れた感触。
 ミー君のお父さんとお母さんは、きっとミー君を大学になんて行かせないだろう。
 遠い街の職業訓練校に通わせるという噂があった。住み込みで、寮もあるらしい。
「ねえミー君」
「ねえヒナ」
 気が付くと、ミー君が真っ直ぐに私を見ていた。
 その瞳は、あの日、ホッピーを買おうと私を促した瞳と同じだった。
「どうして泣いてるの」
 私は言葉を失う。いつの間にか泣いていたらしい。
「俺達、ずっと一緒に居るのに」
 私達は見つめ合う。
 ミー君は、言葉をつづけた。
「あの日、大人になったらホッピーを飲もうって約束したよね」
「うん」
「俺達はまだ大人じゃない」
「うん」
「お酒はハタチからだよ」
 そう言うと、ミー君は缶チューハイの空き缶をゴミ箱に投げた。
「帰ろう」
 ミー君が立ち上がり、私も慌てて後を追うように立ち上がった。
 怒っているのかと思ったけど、別にそうでもないようだった。
 次第に私に歩調を合わせ、ミー君はゆっくりと歩き出す。
「とても当たり前のことを言うようだけど」
 ミー君は真顔で言葉を選ぶように言った。
「うん」
 私はドギマギした。
「ヒナは、俺以外のヒトとホッピーを飲んじゃいけないよ」
「うん」
「それは、裏切りだからね」
「うん」
 涙がにじみ、目の前の夕陽がぼやけた。
 一生大人になんかならなければいい。
 この約束が、私達を繫ぎ留めてくれるなら。

 空は悲しくなるくらいのセピア色で、ああ――あの日もこんな夕方だったと思いながら歩いていった。

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