言いながら、ミー君は困った顔をしていた。言葉の意味がよく分かっていないようだ。
「ヒナは大人なの」
「大人だよ」
「どうして」
と、ふと自分の手に持った缶チューハイを見つめる。
「お酒を飲んでるから?」
「違うよ」
私は制服のスカートをぴらりとめくって見せた。
「スカートの中身を見せられなくなったからだよ」
ミー君はポカンとしている。今度は、私も自分で何を言っているのか分からなかった。
「秘密を抱えてるからだよ」
うん、これならきっと意味が通じる。
「そう」
ミー君は、わかったようなわからないような顔で缶チューハイに口をつける。
それじゃない、と思った。
子供の頃、私とミー君が交わした約束はそれじゃない。もっと楽しそうな名前のヤツだ。
そう、まるで晴れた日にスキップでもするような。
❇ ❇ ❇
――7歳の頃、叔父さんに連れてってもらって、8歳の頃に、その駄菓子屋は潰れた。
まるで1年しか存在していなかったようだけど、実際は私達が知る何十年も前から街のはずれで営業していたという。
叔父さんはどうやら常連だったらしい。軒先で簡単な酒と酒のつまみを出す店だった。
私達は当時競い合うように大きくなっていたが、ミー君は実のお父さんに暴力を振られるようになって、頭の打ちどころがいつも悪かったのか、段々とお馬鹿さんになっていった。
その頃からイヤな予感がしていた。ミー君のおつむの成長が止まったのだ。
私はミー君と一緒に早く大人になりたかったのに。
「おたんこだんご、一緒にいると馬鹿がうつるぞ」
小学生の頃。私がミー君に話しかけると、クラスの男子達は私達のことを馬鹿にした。
いつの時代のイジメだ、と思ったが、私はそれなりに悲しかった。
けれど、それ以上にミー君を一人占め出来るのが嬉しかった。
私以外に、女の子はもちろん男の子も、ミー君に話しかける子は誰一人いなかった。
「ねえ、ミー君」
ミー君は聞いていない。爪の中に入った泥を見ている。
「私、東京の大学へ行くかも知れない」