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『ホッピーでハッピー』桝砂千景

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 ケーキは私の大好きな、中のサンドが桃のショートケーキだった。
 イチゴじゃなくて桃がいい!ってあんたよく泣いていたねと、ケーキを切り分けながら母が懐かしそうに話すと、父も大変だったよなぁと笑った。
 初めてサンドが桃のケーキを食べたのはクリスマスだった。それまでは普通のイチゴだったし、それが大好きだった。けれど、ある年のクリスマス、母はケーキの予約を忘れた。
 いつもクリスマスは幼稚園のお迎えの後にケーキ屋さんに寄って、ケーキを受け取ってから帰るのが恒例になっていた。私はもちろん今年もそうだろうと思っていたし、母もそう思っていたに違いない。しかし、ケーキ屋さんに着いて予約票を渡そうと財布を開けた瞬間、母は気づいたのだろう、予約をしていないことに。
 幸い、まだショーケースにケーキはあったが、よく見るとショートケーキはサンドが桃のものしか残っていなかった。私は一度も桃バージョンを食べたことがなかったし、買った後で美味しくないと言い出したら困る。そう考えた母は、これは中がイチゴじゃないし、千香が好きか分からないから今年はチョコレートケーキにしようと言ったが、私は頑としてショートケーキがいいと譲らなかった。
 いつもの母なら鬼の一声で私を黙らせるが、今回は自分のミスということもあり、本当にチョコレートじゃなくていいのね?と念押ししたのち、ショートケーキを買ってくれた。これが、私と桃サンドショートケーキの出会いだった。
 その後、私はすっかり桃サンドにハマり、誕生日もこれがいいと言って父や母を困らせた。
 と言うのは、桃バージョンはクリスマ限定で通常は販売していないのだ。しかし私はどうしても桃がいいと泣き、父はわざわざ遠くまで車を走らせるはめになった。
 テーブルの上にケーキと、そして父の大好きなホッピーセットが今回は私の分も用意され、それがなんだかくすぐったかった。
 じゃあそろそろ乾杯するかと、父はいつものように慣れた手つきで焼酎とホッピーをグラスに注ぎ始めた。私も見よう見まねで同じように注ぎ、12時ぴったりに家族みんなで乾杯をした。初めて飲んだホッピーは、幼い頃に想像した味と全く違って、これが大人の味なんだなと喉と胸の刺激に耐えながら思った。
 父はそんな私を見て、これでお前もホッピーでハッピーだなと笑った。

 それからまた数年が経ち、ホッピーの飲み方にも慣れてきた頃、私は以前から付き合っていた彼と結婚することになった。大学で出会った彼とは何かと馬が合い、会ったら話をする知人から、休日も遊ぶ友人、そして何かあれば真っ先に報告しあう友達以上恋人未満の関係となり、出会ってから1年の19歳の時、晴れて恋人同士となった。
 二人で色々なところに出掛けたし、色々なことを経験した。もちろん喧嘩もしたが別れようと思ったことはない。むしろ喧嘩はほどよいスパイスで、その後の関係を一皮むけたものにしてくれた。
 きっとそう思えるのは彼だからだろうし、だからこそプロポーズはとても嬉しかった。

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