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『ホッピーでハッピー』桝砂千景

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 キンキンに冷えたグラスと焼酎、そしてホッピー。
 父は仕事から帰ってくると、いつもこのセットを母に出してもらっていた。そして堪えきれないと言った表情でグラスに焼酎とホッピーを注ぐと、ごくりと喉を鳴らしながらそれはそれは美味しそうに飲んだ。
 幼かった私にはそれがとても羨ましくて、父の周りをウロチョロしては一口ちょーだい!と訴え続けた。そんな私をしり目に父はグラスから口を離すことなく、目を閉じ体の底から味わうようにまた喉を鳴らした。
 そのごくりと動く喉の動きを見るたびに自分の喉が渇いていくようで、私はキッチンで父の夕飯の準備をしている母のもとに駆け寄ると、お父さんだけずるいと喚いた。母は料理の手を止めることなく、あれはお父さんのだから飲んでも美味しくないよと言うと、出来上がった料理を皿に盛りつけ私に渡した。お父さんに持っていってと。
 自分の訴えを軽く流され、しかもその原因の父に料理を運べという命令は腑に落ちなかったが、ここで反抗すると後が怖いことを身に染みて知っていたので、これでもかと不満を顔にしながら父のもとに向かった。
 父はおー怖い怖いと大袈裟に体を震わせ、ぶすくれた私から料理を受け取りテーブルに置くと、千香も食べるか?と聞いてきた。しかしその言葉を聞き逃さず、私が答えるよりも先に母がお父さん、と言うと、父は悪戯が見つかった子供みたいな顔をした。
 その顔がおかしくて、寝るまでこの顔でいてやろうと思っていたのに、実行後3分も保たずに吹き出してしまった。
 父はそんな私を膝に乗せると、千香はお父さんの子だからきっと将来酒飲みになるぞと言ってグラスを傾けた。酒飲みになったらこのお酒も飲めるの?と聞くと、父は私の頭を撫でて何杯でも飲めるぞ!と言った。
 そして空になったグラスに焼酎とホッピーを注ぐと、ホッピーでハッピーと笑った。

 あれから十数年が経ち、私もお酒を飲める歳になった。
 初めてお酒を飲んだ場所は実家だった。以前、父に20歳になる前日の夜は空けておいて欲しいと言われた。どうしても一番に、あの父の大好きな焼酎とホッピーで私と乾杯したいというのだ。幼い頃に羨ましくて仕方なかった、あの飲み物で。
 それを言われた当初、実は付き合っている彼がいて、誕生日を迎える瞬間を一緒に過ごそうという話になっていた。だが、父の照れくさそうな、けれど楽しみを抑えきれないような表情を見たら、考えるよりも先に分かったと返事をしていた。
 その後、彼にこういう事情で前日に会うのは難しいと謝罪をした。急に予定を変更したのは私だし、怒られるのは覚悟していたが、彼はすんなりと受け入れてくれた。そして、いい家族だねと言ってくれた。
 24時を迎える少し前、部屋のドアがノックされ母が顔を覗かせた。その顔はとても嬉しそうで、なぜだか少し泣きたくなった。母はそろそろ下に降りてきたら?と言うと、お父さんすごく楽しみにしているよと笑った。
 母と一緒に階段を降りリビングに入ると、テーブルの上にケーキがあった。まさかケーキまで用意されているとは思わず、びっくりしている私に気付いたのか、母がこっそりとお父さんが買ってきたのよと囁いた。そしてそんな私達に気付いた父は、またあの照れくさそうな顔をして、早く座れよと言った。

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