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               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

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『とりたてて変わったことのないある一日の午後から夜にかけての出来事』佐藤邦彦

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 例えば、私が今まで観た映画の中で最も心に残ったのは‘自転車泥棒,だが、妻がこれぞ最高と評価しているのは‘ゴーストバスターズ,である。誤解しないでほしいのだが、別にゴーストバスターズという映画をどうこう言うつもりはない。ただ、なんというか……。私とは価値観が違うということだ。
 まだ結婚する前のことだが、こちらの領地へ妻(当時は彼女だが)を引っ張ろうとして、私がこれぞエンタメと確信しているポールニューマン&ロバートレッドフォード主演の‘スティング,という映画をレンタルビデオ店で借りて一緒に観たことがあるのだが、私としては、最後のどんでん返しで騙される愉悦を味わえるこの映画なら妻(しつこいようだが当時は彼女)も何等かの感銘を受けるだろうとの期待をしていたのだが、その意に反し、彼女の感想は「もっとCGを使えばいいのにね」というものであった。1974年公開。彼女の生まれる2年前の映画に対してである。
 音楽の趣味もまったく違う。私はオールディーズが好みなのだが、何がきっかけだったのか謎だが妻は民謡がお気に入りだ。想像してみて欲しい、時はミッドナイト、場所はハイウェイ。闇を引き裂き疾駆する私と妻を載せたスポーツカー。アクセルをぐっと踏み込む私。レスポンス良く加速するマシン。車内に流れるは安木節。合いの手が入る。あらえっさっさー。と。エンストするのではないかと心配になる私の気持ちがお分かりいただけるだろうか。
 世間に対するスタンスも違う。闘争心に欠ける私は諍いを好まない。ラーメン店で味噌ラーメンを注文して担々麺が運ばれてきても黙って食べる。決して辛いのが苦手だと店側に打ち明けたりはしない。寡黙に涙目で完食する。しかし、妻は闘志に溢れている。ほとんど食べ終わったラーメンドンブリに髪の毛を発見し大騒ぎをする。そして、そのオレンジブラウンの髪が自分の物だと気付き大笑いする。
 他にも違いは色々とあるが、スーパーに着いたのでこの続きはまたの機会に譲りたい。
 せっかくここまできたのだし、ニラ以外にも何かないかと店内を見廻すと酒類売り場が目に入った。確か焼酎が残り僅かになっていたはずだ。紙パック1.8ℓ入りの甲類焼酎25度をニラと一緒に購入する。余談だが、瓶だと一升だが、紙パックだと1.8ℓと表現したくなる。同じ様な話で、以前犬を飼っていた時の事だが、他所の犬は一匹二匹または大きさによっては一頭、二頭と表するが、自分の家の犬は「一人で遊んでいる」「一人で留守番していた」などと一人と表していた。妻などは私に「ジョンと二人で散歩にいってきな」などと指示していたものだ。
 家に戻り、妻にニラと焼酎を渡し、さあ、いよいよ劉備を孔明と対面させようと本を手に取ると、
 「ごま油も切れてた。あははっ」
 と妻が言ってきた。ここで「何故買い物中に携帯へ電話してこない」と言ってはいけないことは2年の交際期間と15年の結婚生活で学習しているので、黙って本を置き玄関へ向かった。
 スーパーから本日二度目の帰宅をし、無事劉備と孔明を対面させ、関羽と張飛が不満を募らせているところで、
 「揚げ餃子ができたわよ」
 と妻に声を掛けられたので、台所へ行き、冷凍庫から凍らせたジョッキを二つとタッパーを取り出す。タッパーの中にはシャリシャリに凍った焼酎が入っている。今年の夏はとにかく暑い。なので、このシャリシャリ焼酎は本当にありがたい。
 タッパーからシャリシャリになった焼酎をスプーンで掬い、凍ったジョッキにいれる。三杯だ。そこへドボドボと泡立つようにキンキンに冷えたホッピーを注ぐ。

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