ともかく、妻の思う夫婦二人きりの生活と、俺の思いはかなりの温度差があったのだと、最近やっとわかってきた。
家庭内別居、やがて熟年離婚とは、こんなすれ違いから始まるのだろうか。
離婚?!いやいや、これ以上考えるのはやめよう。怖い。
「あら?まだ起きてたの?」
風呂から上がった妻はリビングでぼんやりする俺の顔を覗き込んで言うと「先に寝るわよ」と言って2階へと上がって行った。
その後ろ姿は、心なしかいそしそと楽しそうにさえ見えてしまう。
妻の作り上げたあの部屋に一体何があるのだ!?
「おーぃ、高山こっち」
聞き覚えのある声に呼ばれて振り向くと、堀野が大きく手を伸ばしていた。
(おっ?!)手を上げようとした時。
「おぉ、悪りぃ遅くなった」
若い男が俺の脇をすり抜けて堀野たちの方へ駆け寄って行った。
(えっ?)
その後ろ姿に、それが俺自身なのだと気がついた時、夢をみているのだと同時に思った。
高山と若い俺、菊池やその他数人の団体。その中に妻の麻由子も座っていた。そうだ!これは俺と麻由子の結婚が決まってみんながお祝いをしてくれると言う席だった。
「麻由子ちゃん、何で高山なんだよ~俺ショックだよ」
堀野は大げさに項垂れる素振りをしながら若い俺を睨みつけた。
「そうだよね、どっちかって言ったら堀野君の方が面白いし結婚しても楽しそうだよね!」
麻由子の友達が言うと、堀野は(そうだろ~)と言いながらジョッキを煽った。
「ねぇ麻由子、何で?」
麻由子は俯きながらクスッと笑って若い俺と視線を交わす。
「付き合い始めてまだ一ヶ月ぐらいの時ね、一緒にショッピングモールへ買い物に行ったの。車を止めて大きなモールの中へ入ると沢山お店があるじゃない!何から見ようかって迷ってた私に彼が言ったのよ」
そこで話しを止めた麻由子に一同はジョッキを煽る手を止めて続きを待った。もちろん夢だとわかっていた俺自身も、その話しは全く思い出す事が出来ず身を乗り出す思いで若い麻由子を見た。
「とりあえず1時間でいいかな?って。」
「何それ?えっ、わかんない。なにそれ?」
夢をみている俺の気持ちを若い堀野が代弁する。
「お互いに見たいものがあるから、自由に見てこようよって言ったの」