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『100本ホッピー』黒藪千代

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 爺さんを横目に、菊池の話しで俺は俄然100本ホッピーを信じたくなってきた。
「兄ちゃん、今夜はこれ以上飲まずに早く帰んなっ!」
 意気込むように言う爺さん。
「元ちゃん、金払う前にひとついいか!」
 会計の伝票を持った坂下さんが(今年はもうこれ以上ホッピーは飲みません)って誓え!と言う。
 爺さんは(うんうん)と俺と坂下さんを見てうなづいていた。
 爺さんの言うことに従うのは癪だったが、何かの奇跡が起こるチャンスが俺にもあるのならと、素直に右手を上げ誓いの宣誓をしてから家路についた。

「来週のホッピーだけど、ごめんパスさせて」
 風呂上り、扇風機の前で流れる汗にタオルを当てていた。
 台所の片付けを終えた妻は俺の背中に声をかけて風呂場へと向かった。
 返事はきかないのか?俺の意思は?
 いやいや、結婚記念日だぞ?パスとかありなのか?
 そもそも、久しぶりにあの店に行きたいと言ったのは妻の方だ。
 まぁ、いつも俺だけが店に通っていて妻に悪いなと思う気持ちもあったけど。俺にとっては願ったりだった。それにしても、自分から言い出してあっさりパスなどと言える妻を俺は少々呆れた気持ちで見送った。
 学生時代ずっとバイトしていた居酒屋ハッピー。夫婦の間ではいつの間にかホッピーと呼び合っていた。カウンターに6席、4人掛けのテーブルが2つ。そして奥には小上がりの座敷がある。古くて狭い店だ。社会人になったばかりの頃、友達三人でこの店に来た麻由子と知り合った。当時、おじさん達が好んで飲んでいたホッピー。それを飲む事が若い新社会人の中ではちょっとしたブームだった。ちょっとした大人の気分に憧れていただけの事だが。
 ホッピーの中、外の注文の仕方に戸惑っていた麻由子達に、その飲み方を教えたのが俺だ。
 社会人になって客として足繁く通っていた俺に、店長の坂下さんは若い女の子が来るといつも目配せして接客をしろと促した。そして、俺と麻由子は付き合い始め、1年後結婚した。俺達夫婦の出会いの店だ。
 三人の子供が生まれ瞬く間に過ぎた結婚生活。年に一度は居酒屋ハッピーに二人で訪れようと約束したけれど、忙しさに追われる日々でその約束はいつしか立ち消えになってしまった。
 去年、末娘が嫁に行って妻と二人きりの生活が始まった。
 新婚以来の二人きりだと僅かにだが楽しみにしていた。金のなかった若いころと違って、あのころよりは幾分の余裕もある。
 温泉旅行に出かけるのもいいな、週に一回は外食も。また二人で一緒にホッピーを飲みたいなどと、思いを巡らせていた。
 しかし、そんな俺の思いとは裏腹に、妻は娘が使っていた部屋に新しいシングルベッドを買い込み、日々少しずつ荷物を移動させるとあっとゆう間に自分一人の部屋を作り上げてしまった。それからは食事の時以外のほとんどをその部屋で過ごすようになった妻。一体何をしているのだろうか?と訝りながらも俺はその部屋のドアをノックする事が出来ずにいる。
 部屋を移動してからの妻が何故か今までよりも遠く感じてしまうのは俺だけだろうか?もしかしたら妻は意図的に俺を遠ざける為に、いや、遠ざけたいがために部屋を移動したのだろうか?

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