ふっと拓実は口角を緩めた。
「酔っぱっちゃうと何しちゃうか分かんないもんねー」
理沙が意地悪にいう。
「うるへー。酔っぱらうと思ってもないこと口にしちゃうからな」
角を曲がると、よしゅくが見えてきた。大きな提灯が煌々(こうこう)と照っている。
『よしゅく』と華やかに描かれた暖簾(のれん)は、やわらかい夜風を受けてなびいている。
「そうだね。ま、飲み過ぎには注意だ」
「ああ。だから、酔っぱらう前にいわなきゃな」
あと数歩でよしゅくに着く。
「何を?」理沙は恋人の横顔を見あげた。引き締まった顔に、見えない覚悟が滲んでいる。
店の前で、拓実は立ち止まった。理沙も慌てて立ち止まる。
拓実は恋人の目を真っ直ぐと見つめた。
「これからは、結婚を前提に付き合っていこう」
力強く宣言すると、拓実は暖簾をくぐり抜け、ホッピーふたつ!! と店主に注文した。