「もう、焼酎だとか、ホッピーだとか、どうでも良いわよね」
店主は、小指を立て、体を妙にくねくねさせている。
「あたしからしたらさ、二人とも半人前なのよ。でもね、あたし思うの。半人前が二人合わさったら一人前になるかもしれないわって」
男も女は顔を見合わせた。
意味が分からなかった。そして、オネエ言葉になって、内股になっている店主に何が起きたのかも理解できなかった。
それはカウンターに置かれたホッピーも芋焼酎も同感だった。
「もう、こうしちゃうんだからね」
店主は右手に一升瓶、左手にホッピーの瓶を掴むと左右を入れ替えた。右手でホッピーを男のグラスに注ぎ、左手で芋焼酎を女のグラスに注いだ。
男のグラスには、生のホッピー。女のグラスには、ストレートの焼酎。
「さあ、飲みなさい」
そう言われて、男と女は再び目を合わせた。
言葉はなかったが、意思が通じあった。
――飲もう。
二人は目線を自分のグラスに移動させ、中身を飲んだ。
男は、ホッピー。
女は、焼酎。
相談をしたわけではないのに、互いに一口で飲み切った。
店主はそれを見て、満足げな笑みを浮かべた。
「素敵よ。お腹で、今、二つが混じってるわよ。二人とも同じ…」
そう言って、ガクッと膝から崩れ落ちた。
「マスター」
男と女が声を上げ、席を立ったのは再び同時であった。
「あれ、どうしたんだろ」
店主は立ち上がり、自分を覗いている二人の顔を眺めた。
「何? 二人して仲良く立っちゃって。え? もしや、二人で別の店行っちゃうの? いいよ、いいよ。俺は構わないよ。むしろハッピーだよ」
それを聞いて二人は席に戻った。
「マスター、おかわりお願いします」
「あ、私もお願いします」
「え、無理しないでよ。他の店に行きなよ」
二人は聞こえていないふりをした。
「あ、そう。二人してそんな感じなの。じゃあ、何にする?」
「ホッピー」
男と女は同時に言って、照れくさそうに俯いた。
どうも、よろしくお願いします。
おいどんこそ、よろしく頼んます。
いや、当たりやったな。
ええ感じやん。ハッピーやん。
うちも飲みたなってきたわ。お家で一杯やろ。
仲良くやりいや。
ほなね。
笑い声の中に、ホッピーの栓を開ける小気味好い音が二つ、弾けた。