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『バイトリーダー』黒藪千代

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「あっ、いえ、その、店長は・・」
 この時間に掛かってくる電話は明日の予約か、本部からの連絡事項だけだと思っていた私は彩香ちゃんの声が怯えて萎んでいく気配に振り返った。
(どうしたの?)
 声にはせず口だけを動かして視線を合わせた。
「あの、今代わります」
 保留ボタンも押さずに受話器の口に当たる部分をギュッと握り締めたままこちらに無んずと差し出した彩香ちゃん。一瞬たじろいで上半身が後ろに傾いた私は、右手を伸ばして保留ボタンを押した。その光景を目で追っていた彩香ちゃんはそれでも受話器の口に当たる部分から手を離そうとはせずに腕を一杯に伸ばして私に押し付けた。
「何?苦情なの?」やんわりと受話器を受け取りながら言う。
(うんうん)口をつぐんだまま頷いて受話器を受け取った私から素早く距離を取った。私からと言うより、受話器そのものから逃げたという感じだ。
(こんな時に苦情?!店長休みだし・・)彩香ちゃんの怯えるような表情に心の中でため息を吐き出しながら思った。

「もしもし、お電話かわり・・」
「あのなっ、今すぐ箸と醤油持って来いって言ってんだよ!日本語通じねぇのか?!」
 不穏な空気を感じつつ、保留ボタンを解除して営業用の声を出したが、言い終わらない内に遮られ口がパクッと空いたままになる。
「は、箸ですか?」
「そうだよ!箸、あと醤油もな!何度も同じ事言わせんじゃねぇよ」
「はい、申し訳ありません。お客様ご自宅はどちらになりますか?」
「自宅?誰が自宅って言ったんだ!桜通りだよ!今、花見してんの!寿司食おうとしたら箸も醤油もないってどうゆう事だよ!早く持って来い!」
 明らかに酔っ払っている。
 しかし(桜通り端から5本目の木の右側)としっかり場所を言い捨ててガチャンと電話は切れた。
 場所の特定が出来なければこの場で終わる苦情電話だ。明日になってから店長に報告しても(それならしかたないですね)とあの優しげな顔で言ってくれただろう。んーっしかし!場所がわかってしまった以上行かない訳には・・・。だが、今日は新人バイトの彩香ちゃんと二人。
 この後、機材の洗浄と閉店の片付けが残っている。もちろんレジ閉めも。
 そう、今日教えるつもりだった。彩香ちゃんに始めてのレジ閉めを。

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