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『夏祭りの香り』間詰ちひろ

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「お祭りに向かう人たちのさ、いまだけは悩み事も何もかも、ぜーんぶ忘れて嬉しそう姿を眺めるのが、私は一番好きなんだよねえ。ほんと、この場所は特等席だよね」
 隣に座っている奥さんが、パタパタとうちわをあおぎながら弥生に話しかけた。弥生が奥さんの顔をみると、奥さんの瞳も、きらきらと輝いていた。

「からあげ、ひとつくださーい」小学生くらいの男の子が走ってくる。小さな手に五百円玉をぎゅっとにぎりしめながら。
「サマージンジャーホッピー、ふたつちょうだい」浴衣姿のカップルが、手をつなぎながらやってくる。
「はあーい。順番でお渡ししまーす」奥さんの張り切った声が商店街に響きわたる。次から次へとお客様が立ち寄っていく。唐揚げを頬張り、「さっぱりしてておいしいね」と、ホッピーを飲み干す。
 目まぐるしくお客様がやってきて、休んでいる暇もないほどだった。弥生は疲れはじめていたけれど、その疲れすらも心地よかった。たくさんあったホッピーは、もう何本開けただろう? 空瓶はどんどん増えてケースが積まれていった。高橋酒店のおじさんが、追加発注したホッピーを届けてくれた。揚げたての唐揚げも、並べていくそばから誰かの口に入っていく。商店街の人たちも、「祭り限定のホッピー、飲んでみねえとな!」と言いながら、代わる代わる買いにきてくれた。八百虎のおじさんなんか「うちのしょうがが、良い仕事してらあ」なんて言って得意顔だ。
「弥生ちゃん、ホッピーの蓋、俺が開けるから。疲れてきたでしょ」腕がだるくなっていた弥生の様子を貴はよく見てくれていた。「ありがと! 助かる!」弥生は笑顔でお礼を言った。

「ジンジャーシロップ、これでラスト」貴がそう言いながら、シロップがたっぷり入った瓶と、空になった瓶を入れ替えてくれた。
「結構たっぷり作ったんだけどねえ。もうこれで終わりなの?」奥さんが千円札を数えながら、嬉しそうな声を上げた。
「弥生ちゃんのおじいちゃんに感謝しなくっちゃねえ。売上、ばっちりだよ」そう言いながら、うちわでぱたぱたと奥さんは弥生をあおいでくれた。
「へへ。でも、スペシャルシロップを開発したのは奥さんですよ」そういって、弥生は照れながら笑った。もうすっかりと日が落ちている。八幡宮の提灯には灯りがついて、参道に並ぶ出店のライトもまぶしいほどだ。ライトに照らされて歩く人たちの熱気が辺り一面に広がっていた。
「弥生ちゃん、お疲れさま。変わるから、休憩して。ほら、ホッピー飲みな」唐揚げをあげていた店長も出店にやってきた。仕込んできた分の唐揚げも、すべて揚げ終えたようだ。店長が着ていたTシャツは汗でびしょびしょになっていた。
「貴も充分動いてくれたから、ちょっと休め。ほら、弥生ちゃんと一緒にホッピー飲め」そういって、店長は一本のホッピーで、弥生と貴の二杯分のサマージンジャーホッピーを手際よく作ってくれた。
 夏祭りの日におじいちゃんとおばあちゃんが美味しそうに飲んでいたホッピーを、こうして別の場所で飲むことになるなんて。もう二度と合えない祖父母への気持ちが込み上げて、弥生はすこし涙ぐんでいた。そんな弥生の姿を、見て見ぬ振りをして貴は「あー、労働の後に飲むと、染みわたるうまさだよな」といいながら、グイッとプラスチックカップを傾けていた。

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