「あんた達、八幡様にお参り行っておいで。せっかくのお祭りなんだから、働いただけで終わっちゃ、つまんないでしょ?」奥さんがそう言いながら、弥生と貴をうちわで追い出すような素振りをみせる。「ほらほら、貴! 弥生ちゃんと一緒に、いってきな!」店長も一緒になって、シッシッと手の甲で追い出す素振りをする。
「んだよ、うっせーな」貴は恥ずかしそうに頭をワシワシかきながら弥生の方をちらりと見た。貴の顔は、ほんのすこし赤くなっているようだけれど、暗くてよく見えなかった。
「じゃあ、いこうか?」照れながら、貴は弥生を誘う。弥生は笑いながら小さく頷いた。
ほんのすこし風が吹いた。真夏の暑い夜にさわやかな香りがふたりのあいだをすり抜けていった。