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『幸せの味』塚田浩司

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 いつもどんちゃん騒ぎの宴も、たまには真面目な話から始まることもある。ある日、いつものように私がホッピーセットや料理を運ぶと空気がいつもとどこか違った。父の顔をのぞき込むと気難しい顔をしている。
「チヒロ、こっちに来なさい」
と母から呼ばれ、台所に戻ったが、私は父たちが気になって仕方がない。そーっと覗くと父は一番若い大工の橋本さんに向かって静かに語り始めた。
「職人てのはな、きっちり良い仕事さえしていればいいと思うかもしれない。確かにそれが一番だ。でもな、俺たちは仕事をくれるお客がいるから成り立つんだぞ。それが、今日のお前の態度は何だ」
 決して声を荒げず、父は諭すように橋本さんに言った。橋本さんは下を向き、じっとしている。どうやら施主さんに対しての橋本さんの態度が悪かったらしい。不愛想な父が言うからには相当悪かったのだろう。
「確かに、今日は暑かったし、納期もギリギリで苛立っていたかもしれない。それはわかる。でもそんなのはテメエの話しだろ。それにお客にとって家を建てるってのは一生に一度なんだぞ」
 父に対して、橋本さんは顔を上げ、「本当にすみませんでした」と頭を下げた。
「よし、わかったならいい」
 父はそう言ったあと、笑顔を作り、続けて「さあ、つまみどんどん持ってこい。あとキンキンに冷えたホッピー」と台所の母に大声で叫んだ。母は待っていましたとばかりに、フライパンの炒め物をお皿に盛り、私はホッピーセットを運んだ。
 静まり返っていた客間がいつも通りの楽しい宴になった。その日の父はいつにも増してご機嫌だったし、ホッピーの瓶が開くのも早かった気がした。特にしかられて気分が沈んでいた橋本さんには積極的に話しかけていた。そして驚いたのは父が歌を披露したことだ。なんの歌を歌っていたのかは分からなかったが後にも先にも父の歌は聞いたことがない。この宴会では父の意外な一面も見ることができる。今思えば父は気づかいの人だったのだ。
 父には淋しがり屋の面もあった。
 宴はいつもだいたい夜の十時か十一時くらいになるとお開きになる。締めの言葉があるわけではなく、流れ解散なのだが、父は少しでも大工たちに長くいてもらおうと、話を無理やり引き伸ばすのだが、「じゃあそろそろ失礼します」と一人、二人と帰っていく。そして最後の一人が帰ると、「じゃあな、気をつけてな」と玄関までお見送りに行く。父はその後、大工たちの熱気が残る散らかった宴席にトボトボと戻っていく。仕事に行けば会えるし、土曜日になればまた我が家で宴会をするのに、まるで永遠の別れをしたかのように肩を落とす。そして、それにみかねた母が隣に腰を降ろす。そして「私も一杯もらおうかしら」と言ってホッピーで父と乾杯するのだ。 特に言葉を交わすわけでもなく父が眠くなるまで母は付き添っていたのだ。

 

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