どうやら『ご馳走様』の意味のようだ。
「キャベツ、美味しかった」
そう言ったら、ジュンちゃんは鼻先を指でこすって、鼻先をさらに黒くさせて、カゴを背負った。
「うぉう」
片手を挙げて振ったから今度は『バイバイ』の意味と分かった。
会話らしい会話をすることもなく、ジュンちゃんは帰って行った。
ホッピーで体力も気力も回復をしたのか、ジュンちゃんの姿はあっという間に見えなくなった。
ジュンちゃんが去って、山盛りのキャベツとジョッキと空のホッピー瓶が残った。
父が言っていたように、ジュンちゃんは本当に美味そうに飲んでいた。
それは全てを許すことが出来るくらいに無垢だったし、気が急いてすぼまった唇の形はちょっとアホだった。
真っ黒で、土だらけだけど、空みたいな人だった。酔いのせいだけじゃなくて、気持ち良くて、清潔がどうのこうの言っていて「ぼかぁ、ちっぽけだな」と痛感した。
土のついたラベルのホッピーの瓶を、開けた口の上で逆さにして降ってみた。
一滴も残していない。
やっぱりジュンちゃんは職人だなぁ。
と思ったら、一滴だけ僕の舌にホッピーが落ちて来た。
広がった味は、さっきと違うように感じた。
「うぉう」
ジュンちゃんみたく口の中でくぐもらせて言ってみた。
「ワン!」
犬がドアの向こうから吠えた。