「さっ、遊んでおいで」
翔太は大きく頷くと、再びプールに勢いよく飛び込んだ。
親父と僕は、ホッピーを飲みながらその様子を眺めて過ごした。
それは、まるでいつまでも続くような昼下がりの時間だった。
孫たちの成長を生きがいにしていた親父だったが、七十歳を過ぎて体調を崩すと、若い頃とは別人のように随分と痩せ細ってしまった。
僕たちが帰省しても横になって過ごすことが多くなり、日頃一人で居る時は一日中寝て過ごしているのではないかと心配が募る。
「ちゃんと飯食べてるのか?」
「あまり進まんな」
「酒は?」
「欲しくなくなった」
僕は紙袋からゆっくりとホッピーと焼酎を取り出した。
「久しぶりに飲むか」
親父は目を丸くして「あぁ」と一言だけ返した。
その夜、翔太と妻は姉一家と一緒に銭湯へ出掛けたので、親父と二人きりとなった。「たまには親子水入らずで」と、妻が提案したのだが妙に居心地が悪いというか、照れ臭いというか……会話が弾まない。
それでも、縁側に座って冷えたホッピーを飲み、酔いが回り始めると投げ合う会話が少しずつ多くなっていった。
翔太は中学生になったら野球部に入るのか、子どもは一人で良いのか、お前が小さい頃にあそこに連れて行ってやった、とか。
酔って饒舌になったのか、日頃から喋る機会が無く嬉しくて饒舌になっているのかは分からない。ただ、目尻にシワを寄せて喋る親父の横顔を見て少し安心した。
それが、縁側で親父と飲む最後となった。翔太が中学生になった四月、親父は体調を悪くして入院した。体力に自信があった親父も積み重ねた年齢には勝てなかった。
病院へ駆けつけると、親父はベッドに横たわり点滴を受けていた。
「わるいな」
「わるいな、じゃないよ。大丈夫か?」
「なんとか、まだ、生きてるみたいだな」
僕は椅子に腰かけて、親父の顔を覗きこんだ。
「痩せたなぁ」
「年には勝てんな」
「大丈夫さ。また、縁側でホッピー飲もうな」
親父は目を閉じて頷いた。
「翔太は、元気か」