「ああ。あいつ、野球部に入ったんだぜ」
「そうか、そうか」と、ニコリと笑う親父の顔が、僕の目に焼きついた。
それから、僕たちはいろんな話をした。できる限り話をしておかないと、後悔しそうな気がしたから。話し疲れるまで、もう話すことが見つからなくなるまで、話をしたかったのだ。
僕は、夢を見た。
澄みきった青空の下、親父と縁側に座り、大好きなホッピーを飲んでいる夢を。
なぜか親父は僕と同じくらいの年齢で、目の前には幼い姉と僕が遊ぶ不思議な光景が広がる。
「僕」たちはしばらく仲良く遊んでいたかと思うと、いつものように喧嘩が始まった。喧嘩と言っても、姉が僕のオモチャを取り上げ、そして僕が泣き叫ぶいつもの一方的な展開。
その様子に親父は何も言わず、ただ笑顔を浮かべて眺めている。
「なぁ、注意しないの」
「ああ、いいんだ」
「どうして」
「泣かされてばかりで、心配だったけど、お前みたいな優しい男になるんだと分かったら安心した。こうやって人の心の痛みを覚えたんだろう」
「そっか」
僕は親父に認められた気がして、嬉しくなった。
「親父」
「ん、どうした」
「ありがとうな」
コン、と二つのジョッキがあたると、シュワシュワと小さな泡が舞い上った。
口の中でに広がるホッピーの味は、親父と僕の人生の喜びや寂しさ、いろんなことを思い出させた。