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『受け継がれるもの』ウダ・タマキ

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 その翌年、僕は大学卒業を機に故郷を離れて東京で一人暮らしをする道を選んだ。その意思を伝えた時にも親父は「お前に一人暮らしなんか大丈夫か」なんて笑って言いながら、心では泣いていたに違いない。その台詞は、本当は僕が言いたかった。

(親父、本当に一人で大丈夫か?)

 僕は心の中で親父に問い掛けた。
 その夜、親父は縁側に座ってホッピーを飲んでいたので、僕もジョッキを持って隣に座った。ここに座ってホッピーを飲むのは、姉の結婚前夜以来だ。
「なんで、いつもここなの」
 ひと息つき「思い出すんだよな、ここに座ると」と、親父は少し遠い目をした。
「お前や梓が小さい頃に遊んでいたのを思い出す」
「そっか」
「よく梓に泣かされてたな」
「ああ、姉ちゃん気が強かったからな」
 僕は、庭で遊ぶ幼き姉と僕の姿を想像した。
「鼻水垂らして大泣きしてなぁ」
 僕は照れ隠しでホッピーを一口飲んだ。
「僕が出て行くの、寂しい?」
「寂しさ半分、嬉しさ半分、だな」
「そっか」
 僕は体を反らして空を眺めた。月が明るい。昼間はまだ残暑が厳しいが、吹き抜ける風が心地良い。少しだけ秋の気配を感じる、そんな夜だった。

 東京では憧れていた映像製作会社に就職した。仕事が忙しくなると、どうしても帰省の足が遠のく。こんな時、母親がいれば「たまには帰って来なさい」なんて口うるさいのだろうが、親父一人ではそんな催促もない。盆と正月の数日帰省する程度となり、親父と会う機会は年々減っていくのだった。

 故郷を離れて七年、東京で出会った女性と結婚し、翌年には長男が生まれた。姉の一人娘とは四つ離れていて、ちょうど僕たちきょうだいと同じ年の差となった。
 子どもができたことをきっかけにして、帰省する回数が増えた。孫の力は大きく「次はいつ帰ってくるんだ」と、親父から遠回しに帰省を催促されるようになった。
 実家へ帰る時には姉と日程を合わせるようにしていて、息子の翔太が四歳にもなると「じいちゃんちに楓ちゃん来るの?」と、いとことの再会を楽しみにするようになった。

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