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『最後のキス』太田ユミ子


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二
 一週間後の日曜日、絵里子は指定された場所に向かった。話を信じた訳ではなかったが、声だけのタイムトラベルなんておもしろいと思った。「世にも不思議な物語」や「アウターリミッツ」は大好きなテレビ番組だ。当然、不安もあった。新手の詐欺かもしれない。あやしい宗教団体の勧誘かもしれない。行ったら拉致されて、袋詰にされてとんでもない国に連れて行かれるかも―それはないだろう。
 難波へは阪急と地下鉄を乗り継いで一時間足らずで行ける。難波、心斎橋周辺の南と呼ばれる地域は、梅田周辺の北と並んで大阪の二大繁華街だ。絵里子は人をかき分けるようにして戎橋を渡り、宗右衛門筋に入った。このあたりは夜の街で、昼間は開いている店は少なく、心斎橋筋の喧騒が嘘のように人通りが少ない。七階建ての細長い雑居ビルの最上階ある小さな旅行会社、それがプロジェクトの本部だ。
「タイム旅行会社」
 社名を確認して、ドアを押した。せまいフロア―には旅行のパンフレットが差し込まれたラックが並び、カウンターを挟んで二十代前半と見られる女性が座っていた。
「いらっしゃいませ」
 名前を告げると、女性が立ち上がり、カウンターから出てきた。
「お待ちしておりました。こちらにどうぞ」
 カウンターの後にあるドアを開いて、絵里子を招き入れた。そこは応接間だった。広々とした部屋に毛足の長い絨毯が敷かれ、品のよい応接セットがゆったりと置かれていた。
「すぐに担当者がまいります。ここでお待ちください」
 女性が出してくれたグレープフルーツジュースで喉を潤していると、カウンターに続くドアとは反対側にあるドアが開いて、白衣を着た女性が入って来た。彼女は穏やかな笑みを浮かべ、足早に絵里子の所までやって来た。
「中川絵里子様ですね」
 絵里子はうなずいた。五十歳ぐらいだろうか。化粧は全くしていないのに、整った顔は知的で年相応の美しさをたたえていた。
「斎藤です。先日は突然、お電話して申し訳ありませんでした。とても信じられない話なのに、足を運んでいただいて、ありがとうございます」
「私、信じた訳ではないです。ちょっと、おもしろい話だと思って―」
 斉藤さんは深くうなずいた。
「当然です。こんな話、普通は信じません」
斉藤さんは絵里子の前に座ると、右手をすっと差し出した。
「タイム旅行会社にようこそ」

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