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『知らない』室市雅則


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 酒を飲んで大丈夫かと尋ねると、全く問題ないという。
 乾杯をし、ビールで喉を潤し、引っ掛けていた言葉を口に出した。
 『家を出る』と。
 そして、正直な気持ちとこれからの考えを伝えた。
 まずこれまでの感謝。そして、このままでは互いの為にならないこと。親離れし、ここで一歩を踏み出したいこと。つまり、賞金を元手に一人暮らしを始め、仕事に就くことを伝えた。
 両親は黙って聞いていたが、『自分の人生だから好きに生きろ』ということと『助け舟は出すからやってみろ』という言葉をくれた。
 でも、それ以上話を掘り下げることもなく、父は入院中に同室であった寝言がすごいおじさんの話をし始めた。まるで、柳田の旅立ちを受け入れたくないかのようだった。
 そして、久しぶりの酒に上機嫌となった父は犬を飼おうかなと言い出し、母もそれに賛成をした。
 寂しさと柳田の抜ける穴は埋まりそうだと安心が入り混じった。

 一ヶ月後、柳田は実家からおよそ電車で二時間の場所に引越しをした。
 水道代込みで四万円の安アパート。
 この家賃であれば、仕事が見つかるまでの間なんとか凌げるだろうという算段で決めた。
 まだ甘えてしまっているなと思いつつも、引越しは最低限の荷物を両親が軽自動車で運んでくれ、家電は量販店で配達を頼んだ。
 ガス、電気、インターネットの開通も全てを自分で行い少しだけ大人になれた気がした。
 両親も柳田の部屋を感慨深そうに眺めていたのだが、父が早々に腹痛を催した。
 まだトイレットペーパーは買ってきていない。
 柳田が大慌てて買いに出かけ、ことなきを得たが、それまで父親はトイレに座ったまま待っていた。
 両親が大家さんに挨拶に行くというので、付き添った。
 初めに柳田が挨拶をすると、父も帽子を取って深く頭を下げていた。
 その背中がやけに小さく見えた。 
 母はいつの間にか用意していた茶菓子を渡していた。

 二人を駐車場まで送る。
 車では保健所から貰い受けた雑種犬がおとなしく待っていて、柳田の顔を見て尻尾を振った。
 今生の別れでもないたった二時間の距離が遠くに感じた。
 両親は手を振って帰った。
 一人となった。ガランとした部屋。
 将来はまだ不透明であるが、新たなステージに進んだような気がした。

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