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『知らない』室市雅則


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 たまには親孝行をしよう。いくらかを両親のために使おう。
 駅前のデパートに向かった。
 これまでプレゼントをしたことなんて皆無であったが、今日は父親が帰ってくる日であったのでちょうど良い。驚きすぎて、病院に逆戻りしなきゃ良いけどとウキウキだった。
 だが、デパートに入り、フロアガイドを眺めながら気が付いた。
 自分の両親は一体何を好むのだろうか。
 シャツのサイズは。好きな色は。誕生日は。結婚記念日は。出会いは。
 何も知らない。
 柳田は両親について何も知らなかった。
 立ち尽くす柳田にデパートの店員さんが声をかけてくれた。
 「何かお探しですか?」
 柳田は首を横に振ってそのままデパートを出た。

 野良猫の写真を撮りに来ていた公園のベンチに座り込んだ。
 自分は自分に愛を注いでくれる二人のことを何も知らなかった。
 今、やっと自分の足で立とうとしているが、それも両親の助けがあるからこそ。そして、いつかその両親もいなくなる。その時、自立できているだろうか。
 まだ両親がいるからこそ、離れるべきではないだろうか。
 即物的な贈り物よりも自力で立っている姿を見せ、万が一、孫の顔でも見せてやることができたら何よりも親孝行になるのではないだろうか。
 天から降ってきたように得たこのお金はその為に使うべきなのではないだろうか。
 野良猫は一匹も擦り寄ってこない。
 遠くから子供の楽しそうな叫び声が聞こえる。
 見ると柳田と同じ年齢くらいの男性が子供を肩車しながらふざけて走り回っている。
 その脇にはお腹をパンパンに膨らませた奥さんがニコニコと立っている。
 子供は叫びながらも弾けそうな満面の笑顔を浮かべている。
 そして、楽しませている父親もそっくりな笑顔だ。
 柳田は決めた。

 帰宅すると父親がすっかり元気な様子でいた。
 柳田が退院の祝いを伝える前に、『小説の賞おめでとう』と言われ、祝いとして一万円を渡された。
 感謝とともに決意は強固になったが、嬉しそうな顔を見ると言い出すことができない。

 
 三人揃っての夕食。
 退院と受賞の祝いということで、父も柳田も好物にしているラザニアや刺身が並んだ。

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