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『知らない』室市雅則


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 冷蔵庫、洗濯機と運び込まれ、段々と暮らしの色が付き始めた。

 まだ仕事が決まっていないので、資金を大切に使わなくてはならない。
 そのための一歩が自炊だと思いスーパーに向かった。
 料理もろくにしたことがないが、とにかくやってみなくてはならない。
 何を作ろうかとカゴを片手にスーパーを歩く。
 キャベツが並んでいたので、一つ手に取る。
 母がどれを購入するか丹念にチェックをしていた姿を思い出し、同じようにキャベツを一周眺めた。
 そして、何よりも母が好んだ『見切り品』のコーナーも見逃さなかった。

 家に帰り、まだ生温い冷蔵庫に買ってきた肉や野菜をつめた。
 米を炊き、野菜炒めを作って食べる。
 不味い。
 母親が作る野菜炒めには程遠く、今後、これを食べていけるか自信がなかった。
 それでも腹が膨れ、シャワーを浴びようとユニットバスに入った。
 これまでビジネスホテルでしか使用したことがないので、新鮮だがゆっくり風呂に浸かれる家はやはり良かったなと思い出した。
 つまり、一人暮らし開始数時間で早々にホームシックになっていた。

 この調子で仕事を見つけ、働き、出会い、恋をし、愛が芽生え、新たな家庭を育むことができるのだろうか。
 不安ばかりが募る。
 気まぐれにテレビをつけてもパソコンをつけても身に入らなかった。
 少し前であれば、一日はこれからとばかりに目を爛々とさせていた時間であったが、もう寝ることにした。
 電気を消し、フローリングに布団を直接敷いた硬い寝床に入った。
 節約のために安物のカーテンを買ったから、月明かりが透き通ってくる。
 そして、冷蔵庫が自身を冷やそうと奮闘するモーター音が響いてきた。
 柳田には、冷蔵庫からの激励に聞こえた。
 冷蔵庫は一生懸命に冷気を発生させて、役目を果たそうとしている。モーター音に背中を押された気がした。
 自分には安心して帰ることができる場所があるではないか。
 離れたが一人ではない。
 誰もいない部屋で漸くそれに気が付いた。きっとこのスタートは遅くはないと願いたい。
 明日、東の窓から顔を覗かせる太陽とともに起きよう。
 さすがにちょっと早いかと一人で笑うと目を瞑り、滲んだ視界を閉じた。 

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