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『遙かなる道標』伽倶夜咲良


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 外でジーィーと鳴いていた夏の虫のせいかもしれない。
 おやじは、母さんの思い出をとりとめもなく独り言のように喋り続けた。時間の流れを無視するようにそれは前後の脈略がばらばらで、急に話が飛んだかと思うと、また元の話に戻ったりした。
 子供の頃の俺が登場する話もあれば、結婚する前の話もあれば、おやじと母さんふたりだけの思い出の話もあった。
 話の中には、俺も記憶しているものがあって、そんな話は、『懐かしいなあ』と思い出しながらおやじの話を黙って、軽く相づちのように頷きながら聞いていた。
 そんな中で、はっと思いついたようにおやじが言った。
「そうだ!いいものを見せてやろう!」
 そう言うなり酔っ払ったふらつく足でいきなり立ち上がったかと思うと、しばらくの間奥の部屋でごそごそとやっていたが、古い四角いお菓子の缶のようなものを持ち出してきた。
 どこにしまっていたものだろう。見たことのない缶だった。もしかして母さんの遺品?小物入れの代わりにでもしていた缶なのだろうか?
 そんなことを漠然と考えていたら、おやじが缶の蓋を開けながら言った。
「これだ、これ。これがな、父さんと母さんの思い出の宝箱なんだ」
 おやじが急に幼く見えた。
 小さな子供が、おもちゃや、がらくたを集めて箱に詰めて、大人たちに自慢するようにはしゃいでいる。そんな風な表情に見えた。
 缶の中には、写真やら何かの紙切れやらが無造作に折り重なって入っていた。
 そんな中から、おやじは四角く折りたたんだ一枚の紙を取りだしてテーブルの上に広げて見せた。
 それは、A3ぐらいの大きさで、色褪せた折り目がところどころ破れかけている地図だった。
 おやじは、うつむき加減で、まるで昔に帰るのをじっと待っているかのように、無言でその地図をしばらく眺め入っていた。
 そして、湯飲み茶碗の底に残っていたわずかばかりの酒を一気に飲み干しておやじは喋り始めた。
 俺は、空になったおやじの茶碗に酒を注ぎながらその話を聞き始めた。

「あれは、父さんたちが結婚する一月ぐらい前だったかなあ……もう少し前だったかもしれんなあ……
 二人で山を登りに行ったんだ。山と言ってもそれほど高いところじゃなくて、初心者でも気軽に登れるくらいのところを選んで……。
 母さんが初めてだったからなあ。俺は学生の頃から好きでよく山登りはしてたんだけどな、母さんは登ったことがなかったから……。

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