

 目の前で赤子を抱っこして笑っている夫婦も、これからどんな築いていくのか私には分からない。そしていつか私も、誰かと結婚するかもしれないけれど、その人とどんな家庭を築いていくのかは誰にもわからない。
 でも、私はこの家族を愛おしいという気持ちを大事にしたい。
 たくさんの人との出会いとそれを見守ってくれた家族があるからこそ、今の私がある。
「これで帰りますね、お世話になりました」
 そういってナースステーションに退院の挨拶に来る夫婦がいた。母親の腕の中には可愛らしい服に包まれてすやすやと眠る赤子がいる。その子がどんな人生をこれから生きていくのかは分からない。でも、温かい家族に囲まれて、すくすくと大きくなっていくのだと私は信じたい。
「退院、おめでとうございます」
 そう言った私に背を向けて、病院を去っていく新しい家族。
 あの人たちはどんな家庭を築いていくのだろうか?
 そしていつかは私も。
 私はその家族の背中が見えなくなるまで、その姿を見つめていた。
 
            


