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『心のお守り』中村ひな


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 私は小さい頃から虫が大の苦手だった。蚊やハエはもちろん、部屋にゴキブリが出たときにはこれ以上ないくらい大きな声で叫んだ。その声を聞き、すぐにお父さんが退治してくれた。そして私は安心して眠ることができた。そんな何気ない日常がとても懐かしく愛おしく思えた。虫嫌いの私のために送ってくれたスプレー。きっと私が思っている以上に両親は心配している。仕事のこと、生活のこと。その日、私はこっちへ来てから初めて家に電話をかけた。「もしもし」「もしもし、よかった」それが母の一言目だった。「よかったって何よ」「連絡ないから心配だったの、元気にしてる?」「うん、元気だよ。仕事も楽しいし」「そっか それなら良かった」久しぶりに母と話すとしゃべりたいことは山ほどあるはずなのに、上手く言葉が見つからず、沈黙が続いた。「あ、あの」「うん?どうしたの?」「荷物届いた、ありがとう」「ふふ」と母はなぜか少し笑い、「お父さんとあなたが小さい頃のアルバムをみていたの。そうしたらいろいろ思い出してね。そういえば、小さい頃、虫が出るたびにお父さんにくっついて助けを求めてたねって話をしていたの。そしたらお父さん、「今ゴキブリがでたらどうするんだ」って「眠れなくなるんじゃないか」って急に心配し始めちゃって、それで殺虫剤を送ってやれって聞かなくて。それもあなたでも使えるものをって随分熱心にいろいろ調べたりしてね お父さんも心配してるのよ分かってあげてね」私は「ありがとう」と言いたいのに胸がいっぱいでおまけに涙も溢れて声を出すことが出来なかった。「困ったことがあれば頼っていいのよ、家族なんだから」お母さんの言葉に何かの線が切れたみたいに私は声を出して泣いた。こんなに泣いたのは幼い頃以来だ。「どうしたの」母は心配そうに訪ねたが「ううん、嬉しくて。お母さん、私元気にやってるから。それから・・・ありがとうね」私は泣きながらも素直に母にありがとうを伝えることができた。電話を切った後もしばらく涙が止まらなかった。離れていても私を思ってくれる家族がいる。離れてみて家族のありがたさが身にしみて分かった。殺虫剤はその日から私のお守りになった。それを見ると勇気が湧いてくる。そしてとても暖かい気持ちになった。

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