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『或る家の灯』前田雅峰


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 娘は何の化粧もせず、本当に、仕事をする普通の粗末な衣服だった。初めに娘の見せた悲しそうな表情と、その後順次が声を掛けた後に見せた笑顔とが、悉皆(すっかり)陽が落ちて星が瞬き始めた青黒い夜空の下を歩く順次の頭を、何度も過(よぎ)った。そして此の出来事が、順次の悲しく心から恥ずかしかった今日一日の記憶の中に割り込み、全体としてそれを悲劇的でないものに変えて仕舞った事に軈(やが)て気付いた。その時には、もう順次は此の娘に感謝を感じて、落ち着いていた。

 此の話、つまり物干し台の綺麗な娘の話と自分の同級生がその結婚相手だった話から始まって、最後に駅の売店の駅弁の残りを貰った話に、更にその後家迄順次が歩いて帰る間に考えた事迄、全部残らず順次は家で両親に話して仕舞ったところ、順次の両親は大いに声をあげて笑った。その後、家族で娘のくれた風呂敷を開くと、矢張弁当だったので皆で分けて食べた。そして、順次は自分の服装を恥ずかしいと思った事を、率直に両親に詫びた。母親はにこにこ笑っていたが、父親は最後ににっこり笑って、いつもと何も変わらず、こう言った。
「それでええ」
 すると珍しく、その後で母親が笑顔で口を挟んだ。
「今度、その娘さんを此の家に連れておいで。屹度(きっと)、誘ったら恥ずかしそうな顔して黙ってるだろうけど、結局、最後に黙ったまま首を縦に振るからね」
 順次の家の灯りは、いつもより遅く迄点(とも)っていた。そして順次が此の晩、いつにもまして平和で安らかな眠りに入った事は、説明する必要も無いだろう。

 
 私は、会津の川桁の駅から沼尻迄延びていた、今はもう無い高原鉄道にこういう物語を託す。『託す』と言ったのは、本当にこういう事があったに違いないと信じるという意味である。それはそう信じる私に、現実の世界を生きる今の私に、虚構ではない本当の生きる力をくれるのである。

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